第22話
見つけたゴブリンたちは、集落と言っても大した数ではない。
ゴブリンがどれぐらいの速度で数を増やしていくのかは分からないが、ケイ自身のためにも潰しておきたい。
まずは数を把握するために何度か訪れたが、全部で20匹。
恐らくだが、5家族が草木を集めて作ったような家に住んでいる。
「地道に1匹ずつ潰すか……」
潰すにしても、一気にというのは少々危険な気がする。
チラッと見た感じでは、周囲の警戒や狩りに出かけるには棍棒のような物を持って行動している。
必ず2匹1組で行動しているのがちょっと手出ししづらいが、やるしかないだろう。
ゴブリンの集落壊滅を決意して機会を窺っていたのだが、全部意味がなくなった。
「ウッ……! ……猪か?」
討伐開始をしようとして西の海岸付近に来たのだが、ゴブリンの集落は壊滅していた。
食い散らかされた手足や肉片が散乱している。
周囲を探知してみるが、生き残りはいないようだ。
「悩んでいた意味がなかったな……」
魔物だからといっても人型をしているので、躊躇していたのが無駄になった。
なんだか張っていた気が抜けた気分だ。
「アンデッド化したら困るから焼却しておくか……」
“ピョコ!”
このままにしておいてゾンビなどになられては面倒臭い。
焼却処分しておいた方が良いだろう。
ゴブリンの物だと分かっていても……、いや、ゴブリンの物だからだろうか、どっちにしても気分が悪いが、散らばっている手足や肉片を集めると、キュウの目が食べても良いかと尋ねてきた。
「……いや、流石に食べないでくれるか?」
“……コクッ!”
処分できるのならそれでもいいかと一瞬思ってしまったが、なんだか死肉をむさぼるキュウは見たくないので、ケイは食べるのを止めた。
キュウも主人のケイに止められてしまってはしょうがないため、指示に素直に頷く。
枯れ葉や薪を集め、ケイはゴブリンの焼却をした。
「帰ろ……」
猪によっていつの間にか不安がなくなったケイは、いつまでもここにいて猪がまた来たら怖いので、そのまま拠点に戻っていった。
もうすぐ冬が来る。
畑で育てていた野菜は収穫し、拠点内に作った地下空間に保管している。
大工道具も錬金術で大体揃いつつある。
冬の間は気温が下がるので大丈夫だと思うが、これから先のことを考えて、食材の長期保管ができるように冷蔵庫を作った。
冷蔵庫と言っても、2段の箱を作り、上の段に魔法で作った氷を入れ、その冷気で下の段の食材を冷やすというかなり昔の原理の冷蔵庫だ。
魚の中には傷みやすい種類もいるので、そういった種類は早く食べるか冷蔵庫に入れてある。
冬になると雪が降るかもしれないため、今のうちに多く魚を釣って干物にしたりしている。
結構な量の食料を備蓄できたので、去年よりも食材の少なさに悩まされることは少ないだろう。
それと、去年のように寒い中で辛い思いをして釣りをするのはしなくて大丈夫そうだ。
大工道具も大体揃い、最近は錬金術をすることがなくなって来た。
そのせいで、よく遭遇するスライムを倒して拾って集めた魔石が溜まってきている。
最近錬金術で作ったものといえば、これから冬になったとき鍋をやろうと石鍋くらいかもしれない。
「……寒いと思ったら降って来たか」
6月下旬、南半球のこの島は冬に入った。
冬になって少し経つが、どんどん気温が下がってきた。
もうすぐ7月といったある日、ひと際朝から冷えると思っていたら雪がちらついた。
去年この島にたどり着いた時、樹々の日陰部分に少し残っていたので降る可能性は考えられたが、本当に降ってきたのだ。
周囲が白くなっていく様は、心も白く染めてくれるようでテンションがやや上がる。
“プルプル!”
キュウはポケットから顔を出してケイと同じく空を眺めるが、寒い方が勝ったのかすぐまたポケットの中に潜っていった。
「竈を中に作って置いて良かったな……」
外に積もる雪を覗き穴から眺めながら、ケイは暖炉で暖かくなった室内で呟いた。
「春になったら布団作ろ」
アンヘルの持ち物の中には、薄い掛け布団が2枚入っているだけで、暖炉がなかったら凍え死にしていただろう。
島は大体の部分をざっと見て回ったのだが、布を作ることに使えそうな植物は見つからなかった。
そもそも、布を作るためにはどんな植物が適しているのか分からない。
前世で読んでいたラノベとかだと、蜘蛛の糸を使ったりすることが多かったので蜘蛛の魔物を従魔にしようと思ったのだが、自分以外の魔物を従魔にしようとするとキュウが拗ねる。
西の島には1種類の蜘蛛がいたが、ケイを見た瞬間襲い掛かってきて従魔にできるような感じがしない。
せめて綿に似た植物が自生していないか探したのだけれど、なかなか見つからなかった。
「そもそも、どうやって糸にするんだ?」
他にも蚕の魔物から絹を取るという方法があるとは思うが、紡ぎ方が分からない。
この島には潮の流れのせいなのか、漂着物が少ない。
ハンドタオル程度の布切れが流れ着く。
ケイはそれを少しずつ集めていて、もう少しで布団が作れそうまできた。
腕鶏の羽でも中に入れて厚手の掛布団ができないか思案中だ。
「もうすぐ一年か……」
急に異世界の無人島に放り出されたが、なんとか1年過ごせた。
今年頑張ったおかげで、来年は今年ほど苦労はしないだろう。
暖炉に薪をくべ、ケイはベッドに入って眠りについた。
こうして、ケイの無人島初年度が過ぎていったのだった。
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