第11話 金貨


「はい。森に住まうエルフが妖精に作ってもらったといっていたそうです」

「なるほど……って!? エルフが、いるんですか?」

「はい。ですが、エルフにはなるべく近寄らない方がいいです」

「どういうことでしょうか?」

「ここだけの話、エルフは女性しか生まれない種族らしく、男を夜な夜な襲う種族という噂がありまして――」

「ほう……、そこの、夜な夜な襲うという部分――、どういった意味で、どう襲うのかを、ぜひ! 詳しく! 聞かせてもらいたいですね」

「はあ?」

「ちなみに、あくまでも知的好奇心と言う事は理解してもらいたいですね」

「そ、そうですか……」


 俺は、若干引いているナイルに強く頷く。

 ナイルは、あまり気乗りしないのか溜息と共に口を開くと――。


「そうですね。襲われてからでは困りますから、よく聞いてください。森に住まうエルフには、女しかいません。男が生まれることはありません。そのために村里まで下りてきて、男にアプローチを掛けて村まで連れて帰るらしいのです」

「なるほど……、つまり逆お持ち帰りということですか」

「そして、ここからが問題なのです!」

「問題?」

「はい! 女エルフは毎日求めてくるそうなのです!」

「ほう!!」


 最後まで聞くことはしない。

 そのくらい大人の男なら、キーワードを聞いただけで連想してしまうからだ。

 

 きっと日本の草食系男子とかは食い荒らされてしまうだろう。

 そんな獰猛さを異世界のエルフは持っているという訳だ。


 なんと、うらやまけしからん。


「それは、ぜひ会ってみた――、ではなくて気をつけないといけないですね」

「そうでしょう。私達は、半年に一回でいいのですが、エルフは本当に危険な種族なのです。くれぐれも気を付けてください」

「わかりました。気を付けてみましょう」


 話が一段落したところでナイルと共に店の真正面に。

 それでは、また明日にでも――。


「はい。お待ちしています」


 ナイルと別れ店の中に入りシャッターを閉めたあと、バックヤード側から出たあとに裏口を通り家に戻る。


「桜は、まだ寝ているな。時刻は、午前2時か……」


 どうやら異世界とは12時間の時差があるようだ。

 


 


「まぁ、とりあえず――」


 デスクトップパソコンの電源を入れなおし、無線LAN設定を行う。

 5分ほどで設定が終わったところで、台所に向かい片手鍋に水を入れガスコンロの上に乗せて火をつける。


「たしか、ここに……」


 キッチンの引き出しから、お茶のティーパックを取り出し湯呑の中に入れ、お湯を注ぐ。

 今日は、色々とありすぎてすぐに寝る気分じゃない。

 いくつか調べものをするとしよう。


 主に金貨のことや、ノーマン辺境伯の病気のことだが。


 あとは、異世界での今後の身の振り方なども考えないといけない。

 まず、安定を図るなら異世界と交流をしないというのがもっとも堅実かつ安全な方法だろう。

 

 ――ただ、異世界では塩が高く売れるらしい。


 つまり塩だけで生計を立てられるかも知れないということだ。

 結城村の雑貨店として細かい事を考えて商品を仕入れるよりも遥かに楽だとおもうが……。


 問題は、異世界で物が売れた場合、その対価をどうするのか? ということだ。


「おじちゃん……」

「起きちゃったのか?」


 考え事をしていたこともあり、桜が起きたのに気が付かなかった。

 きっと台所で鍋や火を使っていた音に気が付いたのだろう。

 桜は右手で目を擦りながら、俺のズボンを左手で掴んできている。


「……なにを……しているにょ?」

「お茶を作っているんだよ」

「おちゃ……、わたしもにょむ……」


 いや、さすがに深夜2時にお茶を飲ませると寝れなくなるからな。

 それに夜尿(おねしょ)のこともあるし……。

 もっと言えば、桜の言葉も眠いからなのかハッキリしていないし。


「……」

「……」


 二人して見つめ合っていると桜が「むにゃ」っというと「のむにょ~」と良いなら俺の足に寄り掛かりながら寝てしまう。

 どうやら、5歳の桜には深夜2時に起きているのはハードルは高かったようだ。


 桜を持ち上げて、俺が普段から寝ている布団に寝かせる。

 そして、台所に戻ってマグカップに作ったお茶を持って同室のデスクトップを置いてあるデスクの上に置く。

 椅子に座ったあと、マグカップのお茶を啜りながらインターネットブラウザを開く。


「とりあえず、まずは資金だな」


 資金が無いと何もできない。

 ノーマン辺境伯から、心づけとしてもらった金貨。

 まずは、それがどのくらいの価格で売れるのか確認したい。


 金――、それ自体の価格は高騰しているから高く売れるはずだ。

 問題は、いくらで売れるかだが――。


「1グラム5000円くらいか」


 予想していたよりも、かなり高い。

 

 ――と、なると金貨1枚あたりのグラムも確認しないといけない。


 台所に置いてある料理用の量りを持ってきたあと金貨を1枚乗せる。


「重さは20グラム」


 日本円としたら一枚10万円くらいか?

 とりあえず、他の金貨の重さも測ってみるか。

 全部の金貨を測る。

全ての金貨の重さは20グラムで統一されている。

 金貨の直径は20ミリほどで、皮袋の中には50枚の金貨が入っている。


「これだけで500万円か……」


 500万円あれば、しばらくは生活には困らなそうだし、新型の冷蔵・冷凍ケースも入れられそうだ。


「問題は買い取りだな」


 金貨や古銭の買取をしているホームページをチェックしていくが――。


 いくつかのホームページを見たところで俺は溜息をつく。


 ノーマン辺境伯から、もらった金貨の柄は竜の絵柄が書かれた物。

 それと同じような物は、地球には存在しない。

 そして金貨の買取には、過去に存在している金貨か国際基準に定められた物しか売れないようになっている。


「これじゃ売れない……」


 完全に宝の持ち腐れだ。

 次に、ノーマン辺境伯の症状を入力し検索。


 すぐに答えは出てくる。


「結核か……。結核って――、たしか、新選組の沖田総司が掛かっていた病だったよな。薬とか売っているのか?」


 大手の通販ショップで検索をかけていく。

 

「結核の薬まで売っているのか……」


 さらに、商品名で近くのドラッグストアで売っているのかどうかを確認していくが――。

 結城村から車で片道2時間の場所にある大手のドラッグストアで取り扱っているようだ。


 さらに丁度いい事に近くには古物商もある。

 

 ついでに本当に金貨を買い取ってくれないのか、聞いてみるのもいいかも知れないな。




 ――朝方。


日が昇るまで調べものをしていたから眠い。

 姪っ子の桜が起きないように布団から出たあと、朝食は何を作るかと考えを巡らす。


 先日、ママ友掲示板で野菜を食べさせないと駄目だと言われた。


「袋麺にキャベツを切ったのを足した、キャベツラーメンでも作るか」


 桜はラーメンが好きだと言っていたからな。

 子供は野菜が苦手だが、好きなラーメンを主役に添えれば食べられるはずだ。


 まずは鍋に水を入れ火にかける。

 次に袋麺を2個用意しておく。

 そして、冷蔵庫からキャベツを取り出したところでインターホンが鳴った。


「こんな朝早くから誰だ?」


 壁掛けの時計を確認するが、時刻は午前10時を過ぎている。

 どうやら、寝すぎてしまっていたようだ。


 おそらく店に棚を作りにきた踝だな。

 まぁ、いまはシャツ一枚にトランクスだけだが、踝なら見られても問題ないだろう。 


「はいはい」


 軽い返事で玄関の戸を開ける。

 すると、玄関外には村長である田口(たぐち) 隆造(りゅうぞう)と、20代の女性が立っていた。


 女性は、一瞬で死んだ魚のような目をし――、村長は大きく溜息をつく。


「五郎、こんな時間になってまで、そんな服装でウロウロしておるのか?」

「いや――、これは……、昨日は遅くまで色々と調べものをしてまして……」

「まあ、よい。ここで待っておるから着替えてこい」


 その言葉に、玄関の戸を閉める。

 居間へと戻りジーパンとアロハシャツを着た後に玄関に戻り戸を開け。


「村長、お待たせしました」

「うむ――、色々と突っ込みたいところがあるが、今日から、五郎――、お前の家の家事を手伝う儂の孫――、田口(たぐち) 雪音(ゆきね)だ。よろしく頼むぞ?」

「田口(たぐち) 雪音(ゆきね)と申します。今日から、不束者ですが――、よろしくお願いします」


 村長の紹介に頭を下げてくる女性。


「月山 五郎と言います。――あの、村長」

「どうかしたのかの?」

「村長の奥さんが来ると聞いていましたけど?」

「それがな。忙しくて来られなくなったのだ。それで代わりに、東京で保育士をしていた孫に任せることにしたのだ。若いうちの方が体は動くだろうし、子供の遊びにも付き合えるからの」

「なるほど……、ちなみにかなり若いように見えますが……」

「そうでもない。もう24歳だからな、さっさと結婚してほしいと考えてはいるんだがな……」


 ――と、言いつつ、チラリと俺の方を意味ありげに見てくる田口村長。

 その目で何となく察してしまう。


 つまり、これは縁談も兼ねているのだと。

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