夏美と言う少女 (夏美パート)

「はあ、はぁ、おはよ……ござっ……ます!」

「くろだぁ~、お前はまた遅刻か? 何度言えば治る?」

「す、すんません、妹が中々起きてくれなくて」

「まったくこれで中間テスト6位なのはある意味感心するよ、とっとと席につけ」

「はいっ、すんません」


 一限目が始まって数分後、その人は来た、いつものように自転車を急いで漕いできたのがわかるほどに汗をかいた人、冬彦君……私の好きな人。

先生に皮肉に近い注意を受けながら、私の横を通って後ろの席につく。

今日も格好いい、ちょっとだけ寝癖が跳ねてるきっと直す時間がなかったんだね。


「黒田君も大変だよねー、いつも妹さんのお世話で」

「そうね、お喋りしてると怒られるわよ」

「あ、そうだった、この先生、怖いからなー」


「黒田! 遅刻してきたのに私語とは生意気だな!」

「はい! すんません!」


 一限目は数学、この先生はちょっとの私語でもすぐに怒鳴る、案の定後ろで友達の久里山君と喋っちゃったのか、冬彦君が怒られていた、あれで勉強が中学の時から出来るんだから驚きだ、私はここの高校に入るのに猛勉強したのに、やっぱりすごいな冬彦君は。


「小寺さん、校舎裏に今からいいかなって、男子が来てるよー」

「わかったわ、今行くって伝えておいて」


 お昼休み、お友達とお昼ご飯を食べていたら教室のドアの方から私を呼び出す声がする。、いい加減冬彦君以外の人と付き合う気は無いから来ないで欲しい。


「さすが、一年生のアイドルだね、今日もモテモテ」

「噂だとサッカー部の先輩も狙ってるって話だよ」

「時期エースって呼ばれてる人でしょ、すごいじゃん」


 一緒にご飯を食べていた友達が私を囃し立てる、中学の時からこうだ。

私は人より容姿が優れてるらしく何をしてもキレイ、カワイイ、ウツクシイだ。

正直どうでもいい、誰かにちやほやされたくて綺麗になった訳じゃない。

全部、冬彦君に振り向いて貰いたくて頑張った結果だ、その肝心な冬彦君と言えば。


「えっと、おい、冬彦、この問題解けないんだけど!?」

「そりゃ、公式の使い方がてんで馬鹿だからだろ共信とものぶ

「え、だって、のんちゃんはこの使い方って」

「間違えて覚えたんだろ、本当よく受かったなこの高校」

「そこは愛の力だよ、利康」


 お友達とお昼ご飯を食べながら次の期末テストの勉強をしてるはぁ、やっぱり私じゃ駄目なのかな? からずっと好きなのに。


「起立―――礼」

『ありがとうございましたー』

「来週からはテスト期間に入る、各々自習を忘れないように、以上」


 あの後、昼休みも終わりそのまま放課後までつつがなく授業は進み無事終了。

あ、昼休みの告白はきっぱり断った、好きな人がいるとも言って。

毎回こうやって好きな人がいると言い続けてるのに構わず来るからやってられない。


「ね、ねぇ、小寺さん、今日の放課後、暇? 暇だったら駅前の喫茶店で」

「暇じゃないわ、さよなら」


 クラスの男子が私に声をかけてくるが、興味が無いのでバッサリ切り捨てた。

別のグループでは期末テスト前に気分転換にカラオケに行く計画をしている。

それに冬彦君も呼ばれるけど……やっぱり、妹さん優先で断っていた。


 冬彦君は学校の中では面倒見が良くて色んな人の困ってるのを助けるいい人だと言われている。でもプライベートでは妹さん優先で付き合いが悪く、彼女さんもいないと聞いてる。彼女さんになっても妹さん優先できっとデートとか出来ないねとは私の友達の推論だ、それでもいいからずっと恋焦がれてきた。きっと今行動しなきゃこれからもずっと引きずるだけ、振られてもいい。行動しなきゃ。


 そう思った私はかねてより渡そう渡そうと思っていた手紙、所謂ラブレターを誰も見ていないのを確認しながら既に帰っている冬彦君の下駄箱にそっと置いた。

恋愛の神様がいたらどうかお願いします、この思いが届きますように。

私はそう祈りながら、今日はもう帰る事にするのだった。




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