第二十四話 望み
「リーブ・ヤサコニ・イオツミスマル。
ディスコネクト・フロム・ヤサコニ・イオツミスマル」
その瞬間、突然真っ暗になる。
地面に足がつくが、わたしは立つことができず、倒れこむ。
勾玉から出て、宝物殿の中に移動したのだ。
閉め切っているので、月明かりすら届かない。
……今日はもういいだろう。
時刻は
明日に支障が出るかもしれないくらい、遅い時間になってしまった。
……もう、力が入らなくて、体が動かないから、あまり関係ないかもしれないけども。
……運命の子が、あの人が、そして、周りの大切な人が。
みんな、あの魔法の副作用に巻き込まれてしまった。
とりあえず、運命の子が死ぬという最悪の事態には至っていないが、あの人との約束を果たせそうにないほど、厳しい状況だ。
それでも、何とか大切な人たちにようやく打ち明けて理解を得られ、困難に立ち向かう姿勢を見せたのは、わたしの狙い通りの展開になったので、一歩前進と言ったところか。
今後は、あの人が協力してくれるだろう。
あの魔法のせいで、運命の子しかあの人と話せず、見ることができないので、状況を詳しく知ることはできないのだが。
あの時は、どうしようもなかった。
でも、あの魔法を思い出した。
あの人から、魔法を教えてもらった時に、以前その魔法を作り出したという話を。
その魔法を使った。
わたしと、あの人、それぞれの思いにかなう魔法。
そう思っていた。
でも、運命の子を見つけた時、彼女の周りで起きていることに、違和感を覚えた。
いくらなんでも、あの人が約束を果たすのに、障害が多いのではないか。
そう思った。
それからだ。
あの魔法を調べるようになった。
確かに、あの人が言っていた通りの効果だった。
ただ、想定外のことがあったのだ。
あの魔法のせいで、運命の子は、大切な人と親しくなるほど、大切な人とともに、不幸に巻き込まれてしまう。
契約とでもいうべきだろうか、それに縛り付けるような効果もあったのだ。
もともと害を与えるための魔法であり、呪いなのだから、その害を与え続けるためだと考えるのは、想像に難くない。
それでは、永遠に幸せになることなどできない。
柵に囚われたままだ。
そのことが、わかってしまった。
背筋が寒くなった。
このままでは、あの人が約束を果たせないのではないだろうか。
そのために、源家と呼ばれるようになった、わたしや、わたしの子孫とともに、永遠に呪われ続けるのではないだろうか。
そう思った。
わたしは、何としてでも避けたかった。
あの人がわたしとの約束を果たして欲しかった。
また幸せになって欲しかった。
その時、思いついたのが、未来を見る「オラクル」と、魔力や身体機能を亢進させる「ライジング」、神器であり、空間を操り、時間、可能性も操作できる「ヤサコニ・イオツミスマル」の、複合魔法に、他の魔法を組み合わせることによって、運命の子に、魔法を教えるものだった。
呪いの対象となってしまった運命の子が、幸福になるには、魔法を使うことしか方法がなかった。
運命の子が幸福になるには、人々を惑わす魔法を滅ぼすことが必要不可欠だと考え、あの人にも魔法を滅ぼすと誓ったが、あの魔法の副作用には、魔法以外では対抗できないから、苦渋の決断だった。
あの人への約束を反故にするばかりか、さらに運命の子を苦しめるかもしれない、諸刃の剣だったからだ。
鈍器で殴られたように、鈍い痛みが胸に広がった。
気が気でなかった。
その予想通り、魔法を使えるようになったが、不幸のきっかけになってしまい、さらに追い詰めてしまった。
魔力暴走症、魔力消費性疲労症を引き起こして彼女が倒れたときは、目の前が暗くなった。
取り返しがつかないことをしてしまった。
そう思った。
それでも。
これだけ理不尽な目に遭っても、彼女は負けなかった。
言いえて妙だが、呪いに対抗すると言ってくれた。
呪いという、不幸への対抗手段が魔法以外ない中で、狙い通り魔法を習得しようとしてくれた。
大切な人たちの理解も得られたのだから、わたしはほっと胸をなでおろした。
それに、わたしには見えなかったが、あの人の話も彼女はしていたので、おそらく、あの人が教えてくれるだろう。
これで、不幸に対処できるようになれればいいのだが。
ただ、あとは見守り、信じるしかない。
未来に魔法をかけることはできるようになったが、夢のようなものを見せるだけにとどまらせておかないと、混乱させてしまうかもしれず、今まで以上にイオツミスマルを使って、今の彼女に干渉しようとするのは、あの人の正体を知った彼女に、余計な混乱を与えたり、わたしやあの人、ご先祖様、そして自分の存在する意味まで、見失ってしまうかもしれないからだ。それで絶望して、自決を思い立つかもしれないほどだ。
それに、未来に魔法をかけるには「ライジング」を使わなければならないが、これ以上「ライジング」を使った複合魔法を使ってしまうと、わたしは死ぬだろう。
絶大な効果の代わりに、「オラクル」以上の負荷が体に降りかかるからだ。
それを「オラクル」などとともに複合魔法として使うのだから、なおさらだ。
現に、二回使っただけだが、一回目には一か月ほど寝たきりになり、二回目を使った今は、しばらく休めば動くかもしれないけれども、体が全く動かない。
……おそらく、次が最後だ。
もしわたしが死ぬと、いざというときに何もできない。
だから、これ以上できるのは、次の好機が訪れるまで、ひたすら、見守り、信じること。
そして、もしもの時に備えて、色々調べておくことだ。
それだけなら、勾玉の中で「オラクル」や、「アナライズ」などを使うだけだから、数年はもつだろう。
もう、わたしにできることは少ない。
彼女とあの人なら、できる。
そう信じるしかない。
彼女だって、わたしや、あの人の血を引いているのだ。
家族同然だ。
わたしたちのせいで不幸になるなんて、やりきれない。
だから、どうか……。
彼女を、幸せにしてください。
わたしとの約束を、果たしてください。
幸せになってください。
お願いです……。
母様。
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