第十九話 みんながいるから 前編

 ……こんなことになるなんて、正直、考えていなかった。

 五月なら乗り越えられると思っていた。佳菜子、麻利亜、ゆかり、綾花、そして、裕樹に支えられている五月なら、大丈夫だと思っていた。

 そう、信じていた。


 その結果が、これか。

 ズッ友の決裂、親子の決裂、絆の消失。

 五月だって、ただの人間なのだ。弱いところだって、あるに決まっている。

 それを一番近くで見ていたのは、私だったじゃないか。


 「あの時」も、私の家族、友人以外の人から、白い目を向けられていたではないか。

 結局、何もできなくて、幸せを失ってしまったではないか。

 五月を、私の二の舞にしてしまったではないか。


 何が信じているだ。

 誰よりも、傷ついてきた五月を一番見てきたではないか。誰よりも、五月の気持ちを考えることができたのではなかったのか。

 それなのに、「オラクル」を教えてしまって、五月が壊れるきっかけになった。


 それでも、「オラクル」によって、「ブラスト」を知ることができて、佳菜子と麻利亜を助けられた。

 「ブラスト」は、赤魔法と青魔法の、複合魔法だ。同じ種類の「ウィンド」よりも強力で、操るのは実力者でないと簡単ではない。

 それを五月は使いこなし、連発した。


 これも、血、か。

 五月は、防げるかもしれないのに何もしないのは嫌と言った。ある意味では五月が望んだとおりだ。

 でも、この結果は、誰が望んだものだったのだろうか。

 誰も望んでいない。

 五月だって、みんなを呪いたくないからって、自分の殻に閉じこもったけれど、本当はそんなことをしたくない。

 幸せな日々がほしいだけなのだ。大好きな人たちが幸せなのはもちろんだが、本当は、その中に自分もいたいと思って、強がっているだけなのだ。


 それなのに、イワキダイキをきっかけとして、不幸の連鎖が始まったのだ。

 そのイワキダイキが死んだ。

 五月は喜んだ。最低なことかもしれないが、それだけ五月は、私たちは傷つけられたのだ。

 それでも、イワキダイキの言ったとおり、五月の周りの人は、死んだり、傷ついたりして、残った人を不幸にする。

 それが五月は嫌なのだ。

 そのことを、五月は呪いと呼んだ。


 ……呪い、か。

 思えば「あの時」から、源家は私との間に、「永遠の呪い」という名の鎖で縛られているといえる。それに付き合わされて、源家は、ずいぶんつらい思いをしただろう。桜月も二十九で死んだ。当時でもずいぶん短命だ。魔法が追い打ちをかけたのだろう。


 それも、私がこの地にわたってきたのがそもそもの始まりなのだ。

 あの時は仕方なかった。体の弱い母上を残していってしまったからには、「いけ!」と言われたからには、生き残らなければならなかった。

 そして、この地に来て、あの人に助けられて。

 ……追っ手を、振り払って。

 幸せをつかむことができた。


 それは、間違いだったのだろうか。

 五月を見ていると、あの時の幸せを肯定したいのに、それを後悔してしまう。

 その終わりが、今もこうして尾を引いているのだから。

 ……一番の疫病神は、私だな。

 何を言っても、もう手遅れだけど。

 ……ごめんね。みんな。

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