第82話 晴れた気持ち、出発
「よし、行ってくる」
「頑張れよ」
時は満ちた。
時刻は午前10時半、最終日が始まった。
「待ち合わせの場所はこっから遠いな」
走れば1時間、バスなど使えば30分で着く。
「ですよねー」
バスの時間は、一日に二本。
次に来るのは3時間後。
そんなに悠長に待っていられない。
「走り? 嫌だなそんなの」
だってお姫様を迎えに行く、王子様が汗だくって嫌でしょ?
そういうことですよ。
「えーい、背に腹はかえられぬ!」
俺は走ることを決めた。
まだ9月なので、沖縄は暑いが仕方がない。
これしか選択肢がないのだから。
「待ってろよ──」
太陽が照りつける日の下を、ユウキは必死で走った。
「·····来てくれるかな」
小倉は昨日の展望台に、1人で座って海を眺めていた。
人っ子一人来ないので、孤独を感じる。
「待つのって怖いし、退屈だわ」
もしかしたら来ないかもしれない、不安な気持ちになる。
でも、必ず来てくれると信じて待つだけだ。
「·····やっぱりダメだったか」
凛は項垂れていた。
それを知ったのは、凌太からのメール。
「そりゃそうだよね、僕は彼に酷いことをたくさんしたもんね」
正直に言うと、心の準備はできていた。
自分のやっていた行いは、今も尚ゼロにはならない。
それでも、ショックは受ける。
「初めて本当に惚れたのになー、難しいな、恋愛って」
本気で人を好きになることが、どれだけ苦しいことなのかを、凛は知った。
「·····悲しいな、これで終わりなんて」
今回で、追うのも追われるのも終わった。
全てが無駄なように感じる。
「それは違うよ」
「·····え?」
後ろから花が、話しかける。
「何も無駄じゃないよ、凛が恋をしていた時間は」
誰もが、恋愛をしている時は輝いている。
何よりも、誰よりも綺麗になる。
「花·····」
「わ、私は恋愛した事ないけど·····」
「へー、そうなんだ」
凛は笑顔だった。
何より親友が側にいてくれていたからだ。
「それじゃあどっか行く?」
「うん、行こっか」
親友さえ居れば、どんな問題だって乗り越えられるのだ。
凛の気持ちは、青く澄み渡った。
「だぁぁぁぁぁぁぁ! 死ぬ」
水分をとってもとっても、すぐに汗として出ていってしまう。
ユウキは何度も死を意識した。
真昼の沖縄を走るのは、慣れてない人間にとっては地獄だ。
「んんん? 人倒れてね·····?」
前方に倒れている人を発見。
人形とか死体でなければ、一大事である。
すぐに病院へと運ばなければならない。
「こんな時になんで倒れてんだよ」
この人は別に悪くない。
全ては地球温暖化のせいだ。
「おおーい! 起きろ」
倒れていたのは、20代の女性。
自分よりも年上。
「救急車呼んだ方が良いよな·····」
俺は慌てて電話をした。
30分で来るらしい。
「待てん! 誰かこの人の電話帳で·····」
この女の人には悪いが、勝手に携帯を見させてもらう。
「お父さんでいいだろう」
俺はこの人の父親に電話をかけた。
電話が繋がった瞬間、俺は少しばかり驚いた。
「珍しいじゃないか、お前が電話なんて·····」
「あの爺さんじゃねぇか!」
世間とは狭いのであった。
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