第78話 男たちの完全敗北

「いっただっきまーす」


夜は2人で食卓を囲んだ。

他愛もない会話をしながら、美味しい料理を食べる。

これが幸せって奴なんだなぁ。


「俺さ、将来こういう家庭を築きたいんだよね」

「そ、それを私に言ってどうするのかしら」

「どうもしねぇよ!?」


勝手な妄想しやがって。

悪くねぇけどな。


「そろそろ風呂入るか?」

「そうね、時間も時間だし」


俺がバッチリ掃除してあるので、すぐに入れる。

こんなボロっちい家の癖に、風呂だけは豪華だった。


「絶対に覗かないでね」

「もし事故の場合は?」

「海に沈めるわ」

「ヤクザかよ·····」


相当警戒しながら、小倉は風呂へと入っていった。

もっと警戒すべき存在がいると思うけどな。


「あの爺さんどこ行ったんだよ·····」


あの爺さんは、マジもんの変態だと思う。

目の奥底からオーラが溢れ出ている。

しかも風呂があるのは、外だ。


「あいつならやるな」


俺は警備することにした。

案の定、俺の予想は当たった。


「おい、てめぇ何やってんだよ」

「·····! 点検をだな·····」


ハシゴを持った爺さんが、そこに立っていた。

俺と爺さんの睨み合いが続く。


「君こそ何やってるんだ」

「俺は警備だよ、お前みたいな変態を取り締まるためのな」


くっそ、この薄い壁一枚挟んだ向こうに、秘密の花園があるというのに·····。


「わしはやるぞ! 強行突破」

「や、やめろー」


俺は閃いた。

このじじいを止めるふりをしながら、着いていけば良いんだ。

俺は悪くないということになる。


「もう誰にもわしを止めることは出来ん!」

「お、俺が止めてやるよー」


もはや仲良く、2人でハシゴを登っていく。

ある違和感を感じた。


「全然、物音がしなくねぇか?」

「そんな事知るか!」


その時だった。


「え? まずくね」

「死ぬぅ」


はしごが倒れた。

正確に言えば、倒された。

俺たちは、約2メートルの高さから落ちた。


「痛た」

「わしが失敗したことなんてなかったんだがな·····」

「貴方たち、少し来てくれる」


バチバチに服を着た、小倉が犯人だった。

俺の違和感は正しかった。

小倉に連れられるままに、歩いた。


「なぁ、どこ行くんだ?」

「·····」


数分歩いたところにあったのは、小さい交番。


「この人たちに風呂を覗かれました」

「ま、まだ覗いてねぇよ!」

「それは覗かれた人のセリフじゃないのか?」


女子1人と男2人。

男たちは完全敗北を期すことになった。


「少し話を聞こうか」

「この人だけです、僕は警備員でした」


話は聞き入れられず、1時間の事情聴取の末に、何とか何とか許してもらえた。

今回はさすがに危機感を覚えた。


「爺さん、覗きはするもんじゃねぇな」

「次はもっと完璧にやるさ」




















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