第65話 僕は本当に君に惚れそうだよ

突然、泣き出した凛にユウキは困惑した。

どうしたら良いか分からずに、ただそっと抱きしめた。


「·····どうして?」

「お前が寂しくて泣いてるように見えたから」


彼女の悲痛な泣き顔から、寂しいと感じた。

抱いてみると分かった。

心になんにも映っていなかった。

ポツンとそこにあるだけだ。


「本当はわかってたの、僕のやってることは間違いだって」

「うん」

「心が満たされていく気がしたんだ」


話している声から流れ込んでくる。

彼女の背負ってきた悲しみ、痛みが全て。


「辛かったよな、凛」


幼い頃に両親がどっちも出て行った。

正直、考えられない。


「でも大丈夫だ、俺と花が居るから·····」


凛の心が空いているなら、俺たちが埋める。

その為の友達だろう。


「もう今更、綺麗になんてなれない」

「何言ってんだよ、そんな事ねぇよ」


失敗を犯しても、また一から始めれば良い。


「今度は俺が手を貸してやるよ」

「·····ほんと?」

「あぁ」


転びそうになったら助ける。

どんな時も、何があっても。


「僕は本当に君に惚れそうだよ」

「好きにどうぞ」


俺たちを花火が美しく照らした。

凛の顔を見ると、憑き物が取れたように晴れ晴れとしていた。


「花、ごめんね、色々と言って」

「私こそ勝手に首突っ込んでごめんね」


2人は無事に仲直りをした。

友達は喧嘩を経て親友となる。


「うんうん、無事に済んで良かっ·····」

「おい·····」


背後から強い怒りを感じる。

声は低かった。


「どうして屋上に居るんだ? あと御影」

「なんです?」

「お前は教師を舐めているな」

「そ、そんな事は·····」


もう逃げきれない。

完全に包囲されている。


「思っていなくても、態度で出てるんだよ!」

「うゎぁぁぁぁぁぁあ!」


その後、全員無事に叱られた。

俺には別でとんでもない雷が落ちた。


「本当にごめんなさい」


後日、凛と俺は騙した男たちに謝りに行った。

男とは単純で謝ってしまえば、後腐れは無い。


「後は、中野だけだな」


最後に残った中野は怒っていた。


「なぁ? どうしてお前らが仲良くやってんだよ」

「え、それは·····」

「僕は抱かれたもんね、ユウキ」

「おい·····」


この声のトーンは、あの時と同じだ。


「俺のおかげで騙されずに済んだんだよなぁ?」

「ま、まぁ」

「だったら謝罪は1番目だろ? 後さぁ抱いたって何?」

「黙秘権!」


文化祭は無事に終わった。



















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