第60話 指名手配犯は生きづらい

「文化祭最終日、始まります!」


生徒会長の声で、始まった最終日。

ユウキはロッカーで過ごしていた。


「学校の夜は、寒くて怖かったぜ」


校舎から出れなくて、一夜を学校で過ごした。

もちろんタコ星人のままだ。

最終日は最後の花火まで、待つだけだが、人間には食欲がある。


「腹減ったー」


何とか食べ物にありつく為に、ユウキは外へ出てしまった。

餓死だけは勘弁だ。


「クラスに行けば、たこ焼きが食える!」


ここからクラスの屋台までは、そう遠くない。

問題は、格好と監視の目だ。

タコ星人は、全員が知っている。

次に見つけた時は、最後だぞと言わんばかりの監視体制を取られている。


「俺は惨めに餓死するのか·····?」


現在の時刻は9時、花火まではあと9時間ある。

誰かが食べ物を持って来てくれるなんて·····。


「御影君、ですよね·····?」

「人違いじゃないですか? こちらタコ星人ですが」

「なら間違いはないですね」

「なんだお前かよ」


物陰に潜むユウキに、花が食べ物を持ってきてくれた。

ひとまずは、元の教室に戻った。


「御影君、大変ですよ」

「何が?」

「学校中にあなたの顔写真が貼られていて·····」

「まじすか」


とうとうここまで来たかと。

そんなことが許されて良いのか?


「先生たちは、みんな血眼になって探していますよ」

「俄然、燃えてきたわ」


こんなスリルを味わう事は、他の人ではそう無いのではないだろうか。

だったら楽しむしかない。


「あいつをちゃんと屋上に連れてきてくれよ」

「任せて下さい、凛ちゃんは絶対に連れてきます」

「じゃあな、俺はなんとか逃げるからさ」

「頑張ってくださいね」


彼女が持ってきてくれた、たこ焼きは今までで一番美味しかった。

空腹が一番のスパイスとはよく言ったものだ。


「時期にここもバレるだろうな·····」


そもそもそんな悪い事しただろうか。

ユウキは、タコを脱ぎ捨てて、人混みにまみれながら移動し始めた。


(本当に俺の写真が貼られてるじゃん)


迷子の人を探すかのように、写真頑張って貼られていた。


「あれ? あの写真の子じゃない?」

「御影じゃん」


チラホラとバレ始めている。

本当に生きづらい。


「御影を発見したぞー!」

「え? 多くない?」


この学校の教員の半分近くがここに集合していた。

あの大人数では、人の間を縫っては来れないだろう。


「今回も逃げさせてもらいまーす!」

「追え!」


馬鹿め、こういう時は1人の方が逃げやすいのだ。

今回も物陰に隠れてやり過ごそうと思っていた。


「いだっ!」


何者かに足を引っ掛けられ、転倒。

すぐに立ち上がろうと思ったが、既に遅かった。

手を拘束されていた。


「おい! ふざけんな、誰だよ!」

「僕の事かな?」

「お、お前は·····」


俺を捕まえたのは、他でもない古川凛だった。















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