第48話 外はサクッと、中はフワッと

『美味しいたこ焼き、たくさんあるよ!』

「うわっっっ!」


文化祭で、あのたこ焼きが売られている夢を見た。

俺たちの店の前で、たくさんの人が泡吹いて倒れていた。


「ここは·····?」


目覚めると、病院のベットだった。

横には美月も寝ていた。


「俺は確か·····、おえっ」


ダメだ、脳が思い出す事を拒否してやがる。

思い出そうとすると、猛烈な吐き気がする。


「御影君·····」

「ドクター?」


白い白衣を着た医者が病室に入ってきた。

手にはたこ焼きを持っていた。


「最後に診察だ」

「なんですか?」

「ここにあるたこ焼き、どう思う?」

「どう思うって」


難しい質問だ。

だって、ただのたこ焼きだから。


「非常に美味しそうな良いたこ焼きなのかと」

「診察は終わりだ、もう帰っても良いよ」

「え?」


なんだよ今の診察は。

やぶ医者か?


「よかったよ、彼に後遺症が無くて」


後に医者は語った。

病院に運ばれてきた際、ユウキ達はたこ焼きに対して恐怖を抱いていた。

たこ焼きを見せると自然と気を失う。

これは後にたこ焼き病と名付けられた。


「彼が美味しいたこ焼きを食べれるように、私たちが頑張らなければならないな」


医者は、怪しく笑った。

この後の美月は、あと2日の入院が必要だった。


「なんだよ、美月いきなり呼び出して」


退院から3日後、ユウキは美月に呼びたされていた。


「てか、大丈夫か? 傷だらけだけど」


美月の右腕に、赤黒い火傷の跡が無数にあった。

指も絆創膏をたくさん貼っていた。


「気にしないで! それで今日なんだけど·····」

「どうした?」

「私がたこ焼きを作るから食べて!」

「全然良いけど·····」


頭がすごく痛むんだ。

これは脳からの危険信号なのか? ただの体調不良か?


「よし、私だって練習したんだ」


今は、手を切らずともタコを切る事が出来る。

前みたいなまな板を血で染めていた、美月はもうここには居ない。


「水の量も測っちゃうんだから」


しっかりと計測し、今度はいい具合になった。

さぁ、焼きだ。


「ユウキを病院送りにしたのは私、今回は絶対に成功させる」


そう意気込んで始まった2度目の試食会。

それはそれは見事な手さばきだった。

たこ焼きが踊った。


「ほっ! ほい!」


ピックがまるで魔法のステッキのように、目の前のたこ焼きがくるりと回る。

その手の動きは、職人と言っても過言ではない。


「出来たっ!」


鰹節が踊ること、まるでクラブのようだ。

ソースも艶やかしく光っている。


「素晴らしい、なんて美しいんだ·····」


思わず見惚れて、食べることを忘れてしまう。


「それではいただきます」


外はサクッと、中はフワッ。

口の中はそうまるで──。


「大阪やでホンマに」


口の中に大阪が出来たのであった·····。























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