第43話 忘れたくないこの瞬間を

「はぁはぁ、どこ行ったんだよ!」


探し始めてから早くも10分が経ったが、足取りは全く掴めていない。


「凌太はもう頼れねぇし·····」


さっきもう見つかったから大丈夫と、嘘のメールを送ってしまった。


「一体何してるんだ」


人混みをユウキはひたすらに進んでいった。


「はぁ、困ったわ」


一方で小倉は、人混みに流されて、山の方まで来ていた。

その道中に携帯を落としてしまった。


「ここが恋慕神社ね·····、なんかすごいわね」


至る所にハートがあり、鳥居はピンク色だ。


「観光をしている場合ではないわ、御影君たちと合流しなきゃ」


そう思って動こうと思っても、足が動かない。

下駄の鼻緒が取れてしまった。

流されるまま歩いたからか、足も痛い。


「携帯も無いし、どうしたら·····」


ふと脳裏にユウキの姿が映った。

彼なら来てくれるんじゃないかと思った。


「御影君·····」


すると歩こうとするのを止め、ユウキを待つことにした。

空はだんだんと暗くなり、花火を待つ人たちで山は混み始めていた。


「ちっ、考えろ考えろ俺」


もし、小倉が人混みに流されたのなら向かう場所はどこだ。


「恋慕神社か?」


花火の前になるとあそこは人で溢れかえる。

実際にも、ここの屋台通りの行列も、恋慕神社へと続いている。


「一か八か·····、そういう賭けは好きだぜ!」


花火の時間まで、あと30分。


「本当にユウキと小倉ちゃん合流出来たのかな?」

「だ、大丈夫だって、さっき言ってたから」


二人は、お祭りデートを満喫していた。

本当はまだ見つかっていないのだと、凌太はわかった。

ユウキの荒い息遣い、焦った声でわかった。

でも、今は──。


「ほら、何か食うか?」

「うん!」


この時間を楽しみたい。

忘れたくないこの瞬間を、この想いを。

申し訳ないとは思っている。


「後でいくらでも謝ろう·····」


変え難いのだ、この瞬間は。

この先にはもう無いだろう。

だって美月は──。


「どうしたの? 凌太」

「あ、あぁもうすぐ花火だなって思ってさ」

「そうだね、すっごい楽しみだね!」


今だけは隣でこの笑顔を見ていたいのだ。










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