第41話 祭りのジンクス

「·····はぁ」

「どうしたの話って」


灼熱の昼下がり、俺と小森は二人でカフェに居た。


「小森·····、聞いてくれよ」

「ねぇ、そろそろ名前で呼んでよ」

「明日香、聞いて·····」


まぁまぁの長い付き合いだ。

頃合いかとは感じていたが、今かよ。


「凌太がさ告白するんだって、愛慕祭りで」


愛慕祭りとは、この町に祀られる恋愛の神様に纏わるお祭りだ。

毎年人が沢山集まり、最後にはどデカく花火が打ち上げられる。

この祭りを2人で回ると、愛し愛されの関係になるとかならないとか。


「だいたい分かったよ、あなた何か手伝えって言われてるんでしょ?」

「そんなとこだな」


また困ったことに首を突っ込んでしまった。

告白を手伝え? あれ、頭が痛いな。


「俺に課せられたのはただ一つ、凌太を美月と二人きりにする事だ」

「最初っから2人で行かせちゃえば良いのに」

「まぁ、そうなんだけどね」


そうは上手くいかない。

何故かというと、4人で回る約束を美月に取り付けられたからだ。

美月、小倉、凌太、俺の4人だ。


「何それ、簡単じゃん」

「え?」

「あんたと小倉さんが抜け出しちゃえば良いじゃん」

「は?」


一文字でしか喋れないモンスターになってしまった。

よく分からないので、もう一度聞いた。


「な、なんて?」

「あんたが風夏ちゃんと回ればいいの!」

「無理です」


正直ハードルが高すぎるのだ。

最近仲良くなってきたとはいえ、変な言い伝えがある祭りだ。

嫌がるに決まってる。


「てことで、風夏ちゃん呼んじゃった」

「仕事が早いな」


それから数分後に小倉はやってきた。


「また貴方は居るのね」

「二人っきりが良かったのか? なら丁度良かったな」

「そんな事は一言も言ってないけど」

「祭りを一緒に回らないか?」


ユウキは精一杯、爽やかに言った。


「嫌よ」

「強がんなくて良いからさ」

「嫌」

「幾らなら良いの?」

「ストップ、ストーップ」


ユウキがまるで援交に失敗した、おじさんのように見えたので小森は止めた。

お金を出し始めたら終わりよ。


「まずは事情を話しなさいよ」

「凌太が美月に告白する、だから二人っきりになりたいって」

「話は分かったわ」

「なら·····」

「仕方ないわね」


こいつ実は押しに弱いんじゃないか?

ツンデレの手本みたいな奴だ。


「なんて言って断るのよ」

「そうだなー」


二人で回るから、なんて言ったら関係を怪しまれる。


「当日に二人で抜け出すか」

「それが最適ね」

「実は二人仲良しでしょ」


当日に抜け出す事で、話は決まった。

ユウキは今から心踊らせていた。


「お祭りデートか·····」


恋慕祭りのジンクスなど、全く知らせていなかった。

その晩の事だ。


「もしもし、あ、あなた知ってた?」

「小倉か、なんだこんな時間に」


焦った様子の小倉から電話がかかってきた。


「この祭りを回った男女は、愛し合う関係になりますって書いてあるけど」

「ウィキペディア? それ嘘だから安心して」


全くの嘘だ。

恋慕祭りは、いっつもカップルで溢れかえっている。


「そ、そう、夜分遅くに申し訳なかったわね」

「いやいや、じゃ」


まぁ、ジンクスはジンクスだ。

大体が嘘だから間違ってないだろう。

町では着々と、祭りの準備が進められていった。
















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