ねぎ

通路を進んでいくと前方から三人ほどの人影が泣きわめきながら走ってくる。

「お?敵か?!」

思わず竹刀を構えたものの相手はこっちと似たような身なりをした男女三人組だった。

「うわあああああ!。」

ドップラー効果を発動しながら接近してくるちょっとイカツ目の兄ちゃんに声をかけた。

「ちょ、待てよ。どうした?」

兄ちゃんはたたらを踏んで立ち止まったが振り向きざまに大声で怒鳴った。

「ここヤベエぞ!ヤバ目のヤバさがヤバくてヤバイからおめえらもとっとと逃げろ!」

何を言ってるのか全く解らないがヤバイのだけは良く伝わった。

「あ、ああ。引き止めて悪かった。君らは研修キャンセルするの?」

「マジヤバのヤバさだからな!あ、一人置いてきちまった…お前ら頼めるか?」

この手の馬鹿は意外と情に厚い。

「まかせろ。なんとかする。」

「マジで恩に着るぜ。お前らも早めに逃げろよな!ヤバいから!」

そう言い残した兄ちゃん達は脱兎の如く走り去った。

かっこよく言ったつもりだろうけど要は一人仲間を置いて逃げてるだけだ。

しかし任されては仕方がないな。

面倒みてやるか…。

覚悟を決めて通路を進む。枝道などは無く、暫く進むと大きめの扉に突き当たった。

「どうやらこの先に何か有るらしいな。あのイカツ目の兄ちゃんに依るとヤバ目のヤバさがヤバくてヤバイらしいけどなんだろうな?」

「前に来た時は戦闘教官のチュートリアルだったけど、変わったのかなぁ」

「そういえば蒼原くん、経験者だったよね?どんな感じだった?」

「前に来た時は魔法魔術専門学校の仲間と魔法の試し打ちに来ただけだから次の部屋でありったけ魔法使ってリタイヤしたんだよね。そんなに余裕無かったから。」

「そうなのか?」

「ちょっと怖くなってきたけど、どうする?」

とは言っても研修だからなぁ。

命のやり取りまではしないだろ。

「こうしよう。扉を開けると同時に俺が切り込んでいって相手に連撃叩き込む。蒼原は魔法で援護してくれ。いいか?」

「わかった。じゃあ扉を開けるのは星空さんに任せるよ?」

「ハテナでいいよ。わかった。任せて。」

息が合ってきた。頼もしいぜ。

「いち、にの」

「さん!」

「デヤァァァ!!」

扉が開かれると同時に現れた人影にノーモーションで連撃を叩き込む。

竹刀の乾いた音が鳴り響く。

「痛い痛い痛い!乙女の尻を殴るのはセクハラに相当するのです!」

意外と可愛い声が批難を轟轟としている。

「ああっ!ごめん!」

「ごめんで済んだら警察は消滅するのです!謝罪を要求するのです!ねぎは怒っているのです!」

独特な語尾の小さな生き物がそこにいた。

見た目は子供、声も子供。

歩く姿は超子供。

「あの…さっきイカツ目の兄ちゃんが泣きながら走って行ったんだけど知ってる?」

「はっ!あの見た目ヤンキーは仲間でも何でもなんでもないのです!薄情なのです!ねぎがチュートリアルで気絶してる間にいなくなったのです!」

「気絶…ってチュートリアルそんなにヤバいのか?」

「ヤバいかヤバくないか受けてみればいいのです!それよりも謝罪!これはDVDです!

DVD!DVD!」

「何だって?」

「DVDなのです!暴力事件!」

ひょっとしてDVって言いたいのだろうか。

ドメスティックバイオレンス。

家庭内暴力の事なんだけどここ家庭じゃないしな。

「お前、DVDって何の略か言ってみな?」

「はぁ?何も知らないですか?DVDというのはですね…」

顔がみるみるうちに曇ってきた。

「デジタル…」

(初手から…違うね)(しっ面白いから黙ってろ)

「ヴァイオレット…」

(色…?)

「どくまむし」

「蛇になった」

「ピンからキリまで何一つ合ってねえ」

「ええい!うるさいのです!乙女の柔肌に竹刀で殴りかかってきたのはそっちなのです!責任取るのです!こうなったら結婚!結婚するしかないのです!」

「いや、結婚はしねえけどよ…わかった。研修終わるまで付き合うよ。」

「キャーー!付き合うって言ったのです!交渉成立なのです!」

さっきまでの勢いは鳴りを潜めてキャッキャウフフしてるこの小動物はどこか憎めない感じがする。

「ねぎはこう見えて18歳の乙女なのです!大事に扱うのです!」

「今なんつった。18歳?!俺と同い年?とてもそうは見えねえぞ?どう見積もっても14.5じゃねえか。」

「発育ですか?!ねぎの発育に何か文句でも?!ねぎは貧乏だから栄養が足りてないのです!文句があるなら旨いもん食わせろなのです!」

「すまんすまん、こんどなんか奢るよ…」

「わかればいいのです!」

えっへん。

「話は落ち着いたか?」

「うおっ!なんですか!」

大柄の男が声をかけてきた。

「なんか楽しそうだからつい声をかけるの遅くなっちまったよ!俺は澤井、チュートリアル担当の戦闘教官だ。」

「さっきの兄ちゃんたちが泣いて逃げた原因…!」

「全く最近の若い連中は根性無しで困るねえ。説明聞いただけで震え上がって逃げ出しちまうんだからな…」

「あ、お久しぶりです、澤井さん」

「お…?ああ、魔法魔術専門学校の」

「はい、蒼原です。今日は改めて研修でお伺いしました。」

なんだかメガネが頼もしいぞ。

「おし、じゃあさくっとチュートリアル終わらせるか。まずは誓約書からなー。筆記用具持ってきてる?」

「誓約書?!」

何を誓約させられるのだろうか。

ちょっと不安になってきた。

「こっから先は多少危険地帯になるからよ、万が一生命に危機が及んでも異議を唱えない云々って誓約書だ。まあ死んだ所で遺体は丁重にアンデッドとして使役させてもらいますよってのも含む」

「きゅー…」

あ、また気絶しやがった。

そうかー、これかー。

不安になって周りを見てみるとメガネもハテナちゃんも鼻歌気分でサインしてるし

「ハテナさん?大丈夫?ちょっと考えた方が…」

「えっ?私?ああ、大丈夫大丈夫。こういうの慣れっこだから。むしろ蘇生魔法使う側だからある程度覚悟は出来てるよ。」

「強いのね…まあ俺も別にいつ死んでも構わないっちゃ構わないからな…サインしとくか。」

サラサラっと書き上げて教官に渡す。

「よし、上出来だ。そこで寝てる奴はどうする?」

「水でもブッかけたら起きるんじゃないすか」

「ヒデエ仲間だな。よし、かけよう」

「あんたもヒデエよ」

水をブッかけられたねぎはまたギャーギャーさわぎ出したが

落ち着いて話をすると

「結婚のためなら命も掛ける覚悟は決まったのです!」

と案外素直にサインした。

代わりに俺が不安になった。

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県営市民迷宮 あやしげ @ayashige

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