第一階層 ビショップ・水谷の間

 薄暗い階段を降りてたどり着いたのはコンクリート打ちっぱなしの通路だった。10m程先に古めかしい扉があり看板がかかっている。近づいて読んでみると

「赤紫県立東雲市民迷宮へようこそ」

と書いてある。

「えらくフレンドリーな感じだな」

「緊張感ないよね」

「俺、防具つけてるからドア開けられないんだけど」

面、胴、小手を装着してると竹刀ぐらいしか握れない訳で細かい作業が全く出来ない。

道場では裸足だけどここはコンクリの床だからスニーカーを装備している。

ちょっと違和感がある。

「ここは経験者に任せようぜ」

「そうだねー」

意見が一致した。たょっとうれしい。

「わかった。そんなに危険はないと思うけど一応構えててね。じゃぁ開けるよ」

蒼原がゆっくり扉を開ける。と同時にけたたましい咆哮が周囲を包んだ。

「わんわんわんわん!」

「うわっ!モンスターか?!」

「モンスター、なのかな」

もんすたあさぷらいずどゆう。

突然の出来事に驚いて後ずさってしまった。

小さな影が襲いかかってくる。

そして、めっちゃしっぽ振ってる。

顔面に飛びかかって剣道の面をペロペロペロペロ舐め回してるそいつは

チワワだった。

「おお。すまんすまん。こら、ペロ!やめなさい!」

薄汚いローブに身を包んだ髭面の男が駆け寄ってきてペロを抱きかかえる。

「よーしよしよしよし、ペロはかわいいでちゅねぇぇぇ」

「わんわんわんわん!」

一体なにを見せられているのか。

「さっきも二組ほど研修生が降りてきてペロも興奮しておるんだよ。すまんすまん。」

「いや、別にいいっスけど。おじさんの飼ってる犬なんすか」

「おじさんて。わしは水谷じゃ。ここでビショップをやっとる。それがな、ここに採用されたはいいけど、わし独身で寂しいからペロ飼ってたのよ。そんで採用担当に相談したらペロも職員扱いで飼っていいことになってな」

なんだそりゃ。

「ユルいなー。」

「わんわんわんわん!」

「そうかそうか!お腹すいたでちゅか!じゃあご飯にしましょうねー。」

ペロは皿に出されたドッグフードをモリモリ食い始めた。

「君らも食ってくか?」

「結構です。流石にドッグフードは…。」

「なにを勘違いしておる!ちゃんと人間の飯じゃよ!」

髭面はそう言い放って壁に埋め込まれた冷蔵庫から包みを三つ取り出した。

「消費期限ギリギリで食いきれないから食ってくれると助かるのじゃ」

「言い方!」

貰った包みをみんなで分けてランチタイムと洒落込んだ。

「あ、おすしじゃないですか!やったー!」

「ハテナちゃん、おすし好きなの?」

「久しぶりですよ!焼き鯖寿司!」

「はっはっは。ここから先は滅多に食料手に入らないからのう。腹ごしらえしていくとええ。」

「ありがとうございます!いただきまーす!」

「しかし、これからバトルかと思って意気込んで来たのにこんなにまったりしてていいんですかね…」

「ペロが人懐っこいおかげでそんな展開は滅多にないのう。まあしかしバトルになったところでどうせわし勝てんから…入り口でいきなり負けても面白くないじゃろ?」

「それはそれでどうなんだ」

「一応ひとあたりやっとくか?ペロも参戦するぞ?」

「それはズルいです!こんなかわいいワンちゃんとバトルなんて無理過ぎます!」

「はっはっは。友好的でたすかるのう。じゃあ戦って勝利したというテイで経験値をやろう」

「経験値?」

「研修前に配られたタブレットあるじゃろ?あれで君らのステータス確認出来るはずじゃ。」

そういやそんなのもあった気がする。リュックから取り出したタブレットで現在のステータスを確認してみる。

「LV1冒険者…ざっくりしてるなー」

「そこにわしのタブレットから経験値を送るわけじゃ…ポチっとな」

「古っ!」

送信された経験値を受け取ったタブレットが突然大音量のファンファーレを奏で始めた。

デッテッテッテッテッテテレッテレッテレー

「うるせえ!なんだこれ!」

「ホッホッホレベルアップじゃ。おめでとう」

「なんだこの茶番」

「まあ最初だからの。これから先は滅多に上がらんよ。」

「あ、僕のも上がった。ありがとうございます。」

「私のも上がったー。」

「でも冒険者って…」

「まだ配属決まっておらんじゃろ。みんなそこからスタートするんじゃ。研修期間が終わったら何らかに確定するシステムじゃよ。せいぜい稼いでいくんじゃな。」

「研修ってこんなのでいいのか?」

「要は各部署への挨拶回りじゃからな。血の気の多い連中もおるから気をつけるんじゃぞ。」

「水谷さん、いろいろありがとうございました。そろそろ先に向かいます。」

「はっはっは。こちらこそ暇つぶしになったわい。ありがとう。気をつけてな。」

ビショップ水谷氏と別れを告げて次の部屋へと向かう。

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