59 国連会議 其の三


 韓国のヨンホの発言で、敵国条項を思い出した各国の出席者は、島田を冷たく見る。


『はぁ……我が国は70年間、戦争もせず、国際協力を惜しみ無くして来ました。なのに、皆さんはまだ、我が国が戦争を起こそうとしていると思っているのですね……』


 あまりの冷たい目に、島田はボヤいてしまう。


『いいですか? 我々は韓国や中国、ロシアからどんな嫌がらせをされても、一発の銃弾も放ちませんでした。なのに韓国はどうですか? レーダー照射はして来る。中国はどうですか? 領海侵犯はして来る。ロシアはどうですか? 日本漁船を拿捕だほして殺す……』


 早口で喋る島田に、誰も口を挟めないでいる。


『普通の国なら戦争とはいかないまでも、銃撃戦を繰り広げていますよ? それだけ我が国は、戦争を嫌っている事を理解していただきたい!!』


 島田の長い演説が終わると、ヨンホが拍手をしながら口を開く。


『熱い演説お疲れ様です。ですが、それだけで日本のやった事が許されるはずがありません。皆さんもそう思いますよね? 金だけ出して、軍隊も派遣しないで高みの見物をしているのですからね』


 賛同を求めるように出席者を見るヨンホに、島田は反論する。


『金だけと言いますが、我が国が国連に支払っている額をご存じですか? 韓国の四倍です。これは全て国民の税金から出されているのです。いわば、我が国民の血と汗によって、国連が維持されているのです!』


『フッ……ああ言えばこう言う。まったく日本は口が上手い……金を出して偉そうにするのは間違いですよ』


『金も出さず、戦勝国のように振る舞うどこかの国より、よっぽどマシだと思いますがね』


『我が国を侮辱しているのですか?』


『さあ? なんの事やら……』


 徐々に険悪な雰囲気になる二人に、休憩を取らせてクールダウンをさせる議長。

 しばらくして再開させた時には、島田が先に手を上げた。


『忍チューバーは、日本の船か国連の船にしか乗りたくないようなので、船を出していただく事はできないでしょうか? もちろん、我が国が護衛をさせていただきます』


『お待ちください! それならば、韓国が護衛艦を出します!!』


 国連から船が出るのはかまわないが、島に近付くのは、どちらかの艦隊でなくては譲れない。

 その睨み合いの中、議長が重たい口を開く。


『そのような係争地に、船は出せません。少なくとも、両国の艦隊が離れるまでは、国連として動く事はないでしょう』


 議長の言葉を聞いて安堵するヨンホとは違い、島田は不服を申し立てる。


『現在、国連にも忍チューバー救出を嘆願する署名が全世界から集まっているはずですよね? これを無視するのですか?』


『ですから、両国に艦隊を引き上げさせるようにお願いしています』


 議長のお願い……これは決議ではないので、守る必要がない。

 仮に決議を取ったとしても、どちらかが引き上げた瞬間、島は取られるので、動くはずもないと誰しもが思っているが、口には出さない。

 そもそも、領土問題に口を挟む事をしたくないのだから、これ以上、両国に関わり合いたくないのであろう。


 しかし、島田とヨンホには使命がある。


 なんとか韓国を国際司法裁判所へ連行したい島田と、なんとか国連を動かしたくないヨンホ。

 それからも二人の口喧嘩は続き、結局は何も決まらないまま時は流れ、議長が締める。


『とりあえず韓国は、忍チューバーへの武力行使はやめるってのでどうですか? その間に、両国で話し合ってください』


 議長の発言で、日本と韓国以外の出席者は頷く。


『孫にも、忍チューバーを死なさないでと言われていますしね』


 そして議長の公私混同の発言に、各国の出席者は物凄く深く頷き、国連会議は幕を閉じるのであった。

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