19 韓国の英雄


 時は少し戻り、忍チューバーの動画が更新された昼頃、日本だけでなく、韓国でも大きな騒ぎになっていた。


 たった一人の忍チューバーに独島を奪われ、韓国人は怒り狂う。

 怒りの矛先は、忍チューバー。

 元々、徴用工問題、従軍慰安婦問題、ホワイト国問題で集まっていたデモ参加者はひとつにまとまり、忍チューバーを非難する声をあげ、大統領官邸に向かう。


 しかし、怒りの矛先は違う方向にも向いてしまう。

 忍チューバーを生み出した国、日本。

 日の丸の国旗を燃やした。


 それでも怒りの収まらないデモ参加者は、日本と名の付く物に怒りをぶつける。

 日本製品は壊され、日本車はひっくり返される。

 その怒りは日本企業にも飛び火して、石を投げ込まれ、生ゴミを投げ込まれ、商品は盗まれる。


 幸い、日本人には被害が及ばなかったが、時間の問題と感じた日本人は建物に逃げ込み、震えて命の危機を案じるしかできない。



 さすがにこの事態には、大統領府は指をくわえて見ている場合ではなくなり、暴徒と化したデモ隊にやんわりと解散を告げる。

 その時、夜には今回の事態に対する発表をするからと言い聞かせ、一時の沈静化を図ったが、その民衆はネットに集まる。


『嘘、馬鹿、死ね、殺してやる』


 忍チューバーのツブヤイターは大炎上。

 それだけでなく、忍チューバーと名の付くサイトにまで炎が及び、世界中が炎上する事となった。


 ようやく書き込みが止まったのは、その日の夜。

 テレビに映し出された門大統領の登場で、韓国国民は釘付けになる。



『わが国は、忍チューバーこと服部半荘に、領土をおびやかされている。よって、忍チューバーをテロリスト認定し、テロリストとして裁く!』


 力強い門代表の言葉に、止まっていた書き込みが、「忍チューバーテロリスト」の一色で再開される。


『忍チューバーは我が独島に、不法に上陸しただけでなく、我が同胞にまで手を掛けた。島に忍び込んだ瞬間、無抵抗な同胞を自動小銃で次々と撃ち殺し、玉が無くなれば殴り倒し、手当てもせずに、船に乗せるだけ乗せて出発させたのだ』


 涙を流して力説する門大統領に、ネットでは、忍チューバーは「殺戮者さつりくしゃ」や「ホロコースト」、「南京大虐殺」を一人で起こした等、過去の歴史上の虐殺と結び付けられて書き込まれる。


『私はこれが許せない。一刻も早く、独島で、我が国で、韓国で……忍チューバーを裁く裁判を開こうと思う。もちろん忍チューバーは、A級戦犯として扱う!』


 この発言で、今度は門大統領が英雄として祭り上げられる。


『だから皆さん。冷静な対応を取っていただきたい。悪いのは忍チューバー、ただ一人! ここで日本人に危害を加えると、我々も同じ穴のむじなとなってしまう……我々は利己的な種族だ! 日本人とは違うのだ~!!』


 韓国に滞在する日本人に対しては、最大限配慮した発言だったのだろうが、ネットでは、虐殺国家とののしられる日本。

 だが、その声よりも、門大統領を称える声が圧倒的に大きく、韓国国民は冷静さを思い出すのであった。



 会見が終わると、門大統領は自室にこもり、側近との打ち合わせを開始する。


『特殊部隊は?』


『もう出発しております』


『おお! 早いな』


『皆、やる気に満ちあふれていますからね。しかし、一人も死者が出ていないのに、あんな事を言ってもよかったのですか?』


『あれぐらい言っておかないと、国の内外から、忍チューバーを殺したら非難が出るだろう』


『確かにそうですが……』


 門大統領の嘘に、側近は顔を曇らせる。


『心配するな。動画が更新されて、すぐにネット回線は遮断したのだから、もう忍チューバーに外と連絡を取る術はないからな。それに、特殊部隊との戦闘にて死ぬのだ。つまり死人に口無しだ』


『ですが、さきほど情報局にハッキングされた形跡がありまして、最悪のケースも考えておいたほうがよろしいかと……』


『忍チューバーは、漂流して独島に辿り着いたんだ。協力者なんて居ない。居たとしても、電源を抜けばいいだけだ。それよりも、この件で私の支持率は急回復するだろうな』


 側近の心配を吹き飛ばすが如く、話を変えると、側近も笑顔を見せる。


『それはもう……過半数なんて目じゃないです。就任直後の90パーセント越えは固いです!』


『ははは。忍チューバー様々だな。おい』



 こうして門大統領が高笑いする中、忍チューバーに、特殊部隊の魔の手が迫るのであった。

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