お題:空

 落ちる。落ちる。落ちる。風に嬲られて落ちていく。

 私の視界には蒼穹。

 私はなんでこんなことを。……そうだった。空間転移系の魔術行使に失敗したんだ。……不味い、早く飛行魔術を使わないと。確か、魔宝珠はここに入れたはず……あった。


「《飛行魔術フライ起動アクティベート》」


 私の周りに魔素が集まり、それが私の魔力に充てられて次々と魔力へ変換され、私に浮力を与える。

 体勢を整えて背面飛行から通常の飛行に戻す。


「さて、どうやって地球に戻ろうかな」


 そう呟くと共に、後ろから翼の羽ばたく音が聞こえてくる。

 何かと思い、振り向くと──そこにはドラゴンが。地球に隠れ住む蛇のようなドラゴンではなく、本物のドラゴンが、その琥珀の目で私を射抜いていた。


「ドラゴン……こ、怖くない……。わ、私は魔術師、地球でも有数な魔術師。ど、龍言語ドラゴニッシュって通じるのかしら……?」


 そう思い、私は呪文を紡ぐ。


「《世界の理よ・我が下に歪み給え・我に英智を与え給え》」


 種族の隔たりを無くす魔術、黒魔【トランスレート】を行使し、恐る恐る口を開く。


「ど、ドラゴンさん、はじめまして。私は天崎葵と言います。私が何を言っているか分かりますか……?」


 暫くするとドラゴンから返事が来た。


『まさか、まだこの世界に生物が居たとは。しかも、我が言葉を流暢に扱うとは。お主は何者じゃ?』

「……私は、地球という世界で魔術師をしている天崎葵と申します。恥ずかしながら、向こうの世界にて私が開発した空間転移魔術を行使したところ、安全機構セーフティが作動せずに暴走。気が付けばこの世界に飛ばされていました。向こうの世界に帰る方法を探しているのですが、何か知らないでしょうか……?」

『ということは、先程使っていたのが魔術というやつか。世界を超えるとは、いやはや凄いものだ。さて、この世界から元の世界に戻る方法か……はて、確か〝転移陣〟と呼ばれる物があったはずだが……この世界は文明が失われて久しい。残っているかどうか分からんぞ?』

「……っ! それでもいいんです! 案内していただけますか?」

『うむ。いいぞ』


 ドラゴンさんは私のお願いを快諾し、〝転移陣〟まで連れてきてくれました。

 そこには、地球で言うところのストーンヘンジのような建造物の真ん中に意味深な魔術式が描かれていました。


「これは……」

『どうだ?』


 凄い。ちゃんと世界の外殻にパスが続いている。……けど、機能していない。なんでだろう。ちゃんとパスは通っているし、魔術言語ルーンの文法も間違えていない。何処が……。そういう事ね。この描かれた魔法陣に魔力が通らなくなってるのか。


「これ、魔術式が魔力を受け付けないので起動しませんね。水銀とかがあればもう一度使えるようになると思うのですけど……」

『水銀か……何処にあるかは分からないが……一緒にこの世界を旅してみるか?』

「……っ! いいんですか?」

『ああ、いいぞ。暇潰しにもなりそうだしな』

「それじゃあ、直ぐに出発しましょう!」


 私は魔宝珠に魔力を通して飛行魔術を起動させる。身体が少し浮いたところでふらついて地面に落ちる。が、来るはずの痛みが一向に来ない。ドラゴンさんが翼で受け止めてくれていた。


「あ、ありがとうございます……私としたことが魔力切れなんて……」

『我の背中に乗れ。それぐらいは構わん』

「そ、それじゃあ、失礼して……」


 私はそのまま背中まで移動する。


『それじゃあ、飛ぶぞ!』


 そう言うと大きく羽ばたいた。空に掛かっていた雲を突き抜け、光を見る。


「赤い……」

『夕暮れだ。綺麗だろう』

「はい……」

『では、行くぞッ!』


 ドラゴンさんの急加速で身体が持っていかれそうになるものの、何とか耐えきった。

 ……こうして、私とドラゴンさんの水銀を探す旅が始まったのです。

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