第31話 あの青い色ともう一度
「うぃ、んじゃ今日はこれでオシマイ。気ーつけて帰れよおめーら」
すっかり緑色になった桜の木をぼんやりと眺めてるうちに、ホールムームが終わったらしい。大アクビをかましながら気だるげに教室から出て行く先生に苦笑しつつ、わたしは大きく伸びをした。
明日から待ちに待ったゴールデンウィークだ。今年は嬉しいことに休みが長めだから、空いた時間は全部ゲームにつぎこむぞ。
なんて言ったら、ふーちゃん始め真面目な友達一同からは怒られるんだろうけど。受験までまだ半年以上あるんだし、少しくらいいいよね?
誰にともなく心中で言い訳して、なんとなく教室を眺めてみれば、みんな似たような雰囲気だ。うんうん、受験生とはいえみんな遊びたいよね。
「みーちゃん、一緒に帰ろー」
「うんいいよー……と言いたいとこだけど、今日は用事あるから途中で降りるよ?」
おっと、眺めてる場合じゃないや。
声をかけてきたクラスメイトに返事しつつ、そのまま一緒に廊下に出る。さらに二人で隣のクラスに入ると、もう一人の友達と合流した。
そのまま駅に向かいながら、このあとのことをちょこっと説明する。
「ああ、幼馴染の会?」
「そー。今日はみんなの予定が合ったからねぇ」
「いつも思うけど、そういうのいいなぁ。小学校の頃からずっと仲良しって羨ましいかも」
「そうよねぇ。私たちもそういう友達がいないとは言わないけど……やっぱり高校がバラけちゃったしなぁ」
「みんな違う高校に行ったのに、平日でもたまに会うって相当仲よくないとできないよねぇ」
「まあね、そこはね、ちょっと自信あるよね」
ふふん、と二人に対して胸を張る。
あれから約五年。いつの間にかわたしも高校三年生だ。
だけどみんな別々の高校に進学した。それでもはーちゃんやふーちゃんと疎遠になったなんてことはなくて、今でも時間が合えば遊ぶ仲だ。それを高校の友達たちは、誰からともなく幼馴染の会と呼んでいる。
もちろん、だからと言って高校に友達がいないわけじゃない。高校に入ってからもわたしは友達に恵まれたし、彼女たちと遊ぶのだって楽しい。
なんなら、はーちゃんふーちゃんも交えて大勢で遊ぶことだってある。どっちもわたしにとっては自慢の友達で、どっちが一番なんてのはない。それくらい仲良くやれている。
まあ、なぜか誰も色恋沙汰と縁がないことだけが残念ではあるけど、それはともかく。
とはいえ、はーちゃんとふーちゃんはやっぱりわたしにとって特別だ。それは高校の友達が「幼馴染の会」と評した通り、わたしたち三人が幼馴染だからだろう。
あとは……三人だけで共有してる秘密や思い出があるから、ってのも大きいんだろうな。こればっかりは他の誰にも言うわけにはいかなくって、おかげで三人でいるときしか大っぴらにひーちゃんのこと話題に出せないしね。
だけどわたしの身体は一つしかないわけで。たまーに……今日みたいに、誘いを断らざるを得ないこともあるわけだ。
「じゃあわたし降りるね。二人ともまたね!」
「ええ、またね」
「今度みんなで遊ぼうね〜」
普段なら降りる駅より少し手前、この辺りだと一番大きな駅で降りる。
電車内に残った二人に、ドア越しに手を振りながら見送ったわたしは、そのままホームから出た。そしてこの駅でもとりわけ目立つ待ち合わせスポットに急ぐと、そこにはもう二人が到着していた。
「イズ子ー! こっちこっち!」
先に気づいたはーちゃんが、大きく手を振ってくる。
彼女に近づけば当然、その隣にいたふーちゃんもと顔を合わせる形になって、わたしは自然と笑っていた。
「二人ともお待たせ!」
「気にしないで。私たちもさっき着いたばかりよ」
そう言ってにっこり微笑むふーちゃんは背が伸びていて、あの頃から実はよかったスタイルがさらによくなっている。元々胸は大きかったけど、背が伸びたことでその辺りのバランスが整ったって感じだ。
ブレザーの制服をきっちり着てる姿は姿勢もいいし、メガネもはーちゃんプレゼンツでセンスいいしで、誰がどう見たって美人さんになった。正面から見ると改めてそう思う。
「イズ子ん
「ホントにねー。あー、早く車の免許が取りたいよー」
笑いながら肩を組んでくるはーちゃんは、なんていうかジャンルが違う。あの頃から美人な子だったけど、モデルとして女優として活躍する今となっては文字通り住む世界が違う。
まあ相変わらず学校指定のカバンやブレザーを魔改造してるし、化粧やアクセサリーも普段からバンバンしてることもあって、一部からは問題児扱いらしいけど。彼女はいつだってブレない。
一方のわたしはと言えば……うーん。
いや、そりゃあの頃に比べればちょっと背は伸びたし、胸も……こう……一応、あるけど……。悲しいことに伸びた「ちょっと」は本当にちょっとだし、胸にしたってAだしなぁ……。
うん……ぱっと見だと、わたしはとても高校生には見えないくらい小柄なままだ。小六の頃のスク水が普通に今も着られる、って言えばどんだけ変わってないかよくわかるだろう。お母さんの遺伝子は強かった。
だからって二人に嫉妬することはないけど、たまに無性に虚無感を覚えるときはある。今みたいにはーちゃんの胸が当てられてるときとか。
そのたびに、ひーちゃんの姿を思い出す。わたしと同じくらいの背丈、身体つきだった彼女は、今もわたしの中では変わらないから、自分と比べて自分を励ますのだ。ひーちゃんには申し訳ないけどね。
ただ、同時に彼女に思いを馳せちゃうから、ちょっぴり切ない気持ちになる。だって、みんな見た目含めて何かしら変わってる中で、彼女は記憶の中にしかいないせいで変わらない。
あれから一度だって会えていないんだから、彼女の姿がアップデートされないのは当然なんだけど……それでもそこに思い至ったとき、どうしても切なさを覚えてしまうのだ。
そんな気持ちになるところは、わたしもちょっとは大人になったのかな、とも思うけど。
いやでも、ホントひーちゃんはあれからどうしてるだろう。大きくなったんだろうか。それともわたしみたいに小さいままなんだろうか。
今もきっと、どこかで戦ってて、誰かを助けてるんだろうな、とは思うけど……。
「とりあえず移動しましょ。ここにい続けて花房さんのことが周りに気づかれても困るし」
おっと、なんてことを考えてる場合じゃなかったね。
わたしはキリっと真面目腐った顔を作ると、ふーちゃんに向けて大きく頷く。
「間違いない、それで行こう」
「おう、そうだな。いつものファミレスでいーか?」
「賛成だけど、ちょっと待って。その前にアニマイト寄らせて。雑誌買いたいんだ」
「ああ、いつものなんとかタイプってやつね」
「お、ちょうどいいや。あたしも欲しい雑誌あるんだった。あの店やたら品揃えいいし、ないってこたないだろ」
「そうなの? じゃあ私も、学術書の棚でも見てみようかしら」
はーちゃんがこの時期に欲しい雑誌っていうと、彼女が普段からモデルで載ってるファッション誌だろう。今日はみんなで回し読みかな。
そんな予感を抱きながら、わたしは二人と一緒に駅の外に出る。
出てもなお、地元の柊市と違って駅の周辺にはかなりの人がいるけど、そこはもう慣れたものだ。みんなで行くようなところは大体行きつくしてるし、ルートも把握してる。
だからさほど時間をかけることなく、行きつけの店にたどり着いた。
「んじゃわたしこっちだから」
「おう、買ったら店の前でな」
「ええ、二人ともまたあとでね」
そしてわたしたちは、すぐに別々の方に足を向ける。
当たり前だけど、仲が悪いわけじゃない。わたしたちはお互いの趣味を尊重していて、だけど自分の好きなことに対しては全員が全力なだけだ。だからそれぞれに目的があるときは、別行動も当たり前にする。
ドライな関係って思われるかもしれないけど、これは信頼し合ってるからこそ。変に付き合わせるよりも、好きなことをして楽しんでくれていていい、っていう信頼があるからだ。
もちろん、好きなことをまったく話さないわけでもない。お互いの好きなことは、顔を合わせれば語り合う。
この辺りは、本当に昔と変わらない。わたしがゲームや漫画、アニメの話に終始する一方で、はーちゃんはファッションやスポーツ、芸能界の話がほとんどだし、ふーちゃんはあの頃より知識が増えて雑学王って感じになりつつある。そんなやり取りがわたしたちの日常だ。
ただし、あの頃と違ってお互いの趣味にまったく興味がないってわけでもない。今に至るまでの五年間で、みんな相応にお互いの趣味に手を出しているから、三人で一緒に楽しめる話題、機会はあの頃の比じゃない。その点に関しては、間違いなくわたしたちの成長だろうなって思う。
まあ、自分たちの元々のフィールドが一番、っていう認識は三人とも変わらないけどね。
「……お、あったあーった」
と、そうこうしてるうちに目当ての棚までたどり着く。居並ぶ雑誌を順繰りに眺めていると、どうやら目当てのアニメ雑誌は残り一冊らしい。
今号は付録が豪華だから、それも仕方ないだろう。でもだからって先を越されるのは癪なので、わたしは少しだけ足を速める。
そして目当ての雑誌を手に取……ろうとして、視界の外から伸びてきた小さな手に気づいてぎょっとした。
なんてことだ。まさか最後の一冊を取るタイミングが被るなんて。
でも、ここで一歩も引くことなく……なんてできないわたしは、日本人なんだろうな。思わず手を引っ込めてしまって、ブッキングした相手に愛想笑いを向ける。
「あっ、ごめんなさい!」
「いや、わしのほうこそ……」
そこでわたしは、固まった。ただ固まっただけじゃない。驚いて、驚いて、心底驚きまくって固まってしまったのだ。
相手のほうも、まったく同じリアクションをしている。わたしのちょっとだけ下のほうから見上げた状態で、固まるその相手は。
――青い目をしていた。
天使の輪が見えるんじゃないかってくらい、きれいな黒い髪の毛をポニーテールにして。
見覚えのあるセーラー服を着た、わたしより少し小さい女の子が。
丸くした青い目を見開いて、わたしを見上げていた。
心臓が激しく動き始めたのがわかる。バクバクとすごい音が聞こえる。
同時に身体が震え始めたのは、一体どういう意味でだろうか。いや、きっとたくさんありすぎて言い尽くせないかな。
ともあれわたしたちは、そうしてしばらく見つめ合っていた。実際には、そんなに長い時間じゃなかったのかもだけど……それでも、なんだかわたしには永遠に思えるほどで。
だけど時間はとまっていない。間違いなく時間は流れていて、わたしたちはぎこちなく……でも同時に、お互いに指を向けた。その指先は、どちらも少しだけ震えていた。
「……ひー、ちゃん?」
「泉美、か……?」
そして名前を呼び合う。
それが意味するところを理解するまでに、またそれなりの時間がかかって、お互いに固まっていたけど……。
やがて目の前で、彼女の顔がぱあっと綻んだ。きっと、わたしも同じだろう。
そう認識すると同時に、わたしたちはさほど離れていない距離を二人でさらに縮めて。
「ひーちゃん!? ひーちゃんなんだね!?」
「そういうお主は泉美! 泉美じゃな!?」
お互いに両手を重ねて。
「やっぱりひーちゃんだ! ひーちゃん!」
「泉美! はははははっ! また会えたな!」
すぐさま正面から抱き合った。
そしてお互い笑いながら、肩を叩き合う。
「なんじゃ泉美、お主ほとんど変わっておらんではないか! すぐにわかったぞ!」
「そういうひーちゃんだって、全然変わってないじゃん! 変わってなさすぎて逆にわかんなかったよ!」
いやホントに、ひーちゃんまったく変わってないな!? 五年経ってるのに、あの頃のまんまだぞ!
記憶の中の彼女は、わたしよりちょっとだけ大きかったはずだけど、いつの間にかわたし追い抜いちゃってるじゃないか!
身長だけじゃない、胸も……なんていうか、まったくないのでは? 完全な子供体型なのでは?
そう思った瞬間、ぐいっと腕で顔を固められた!
「わーっ!?」
「はははこやつめ! 子供体型だとか思ったな!?」
「ぎくー!? い、いやいや、そういうのじゃないよ!? ただこう、あれだよ、わたしもちっちゃいままだから、やっぱりひーちゃんは心の友だなって!」
「ほほーう?」
慌てて言い訳すれば、すぐ目の前の顔がにやりと笑った。
あっ、その顔。いつものひーちゃんだ。あの頃、よく彼女がしてたいたずらっ子みたいな笑い方!
記憶のままのその顔に、固められてるのにわたし感動すらしちゃったよ!
それがまた妙におかしくって、思わず笑ってしまった。ひーちゃんも似たような心境だったのか、釣られるように笑い出す。
「おいおい、こんなとこで何してん……だ……」
「平良さん、お店でそんな騒いだら迷……惑……」
そこに、はーちゃんとふーちゃんがやってきた。二人とも本を抱えてる辺り、目当てのものは見つかったんだろうけど……。
そんな二人にわたしが振り返るよりも先に、いつの間にか横に並んだひーちゃんが嬉しそうに声を張り上げた。
「おお!? 樹里愛! 奏! 二人もおったのか!」
「は!? と、トー子!?」
「嘘……光さん、なの……!?」
「おうとも! 久しぶりじゃな!」
にん、と笑いながら自分の胸に親指を向けたひーちゃんに、二人は絶句して固まった。
ああ、その気持ちとてもよくわかる。さっきのわたしがまさにそうだったもんね。
だからわたしは、ひーちゃんと同じように笑いながら、彼女と肩を組む。
「びっくりしたでしょ!? 今々ここで会ったんだよ!」
そしてそう言えば、二人も理解が追い付いたんだろう。二人ともくしゃっと顔を歪めると、半泣きになってこっちに詰め寄ってきた。その勢いのまま、ひーちゃんは二人に両側から抱き着かれる。
でもその程度で押し負ける彼女じゃない。彼女がそれくらいで退くはずがない。
わたしの予想は的中する。彼女は二人を正面から受け止めると、そのまま二人を抱きかかえるようにして迎え入れたのだ。
ひーちゃん、身長が全然変わってないから二人はしゃがみ込む形になってるけどね。
「マジかよ……夢じゃないよな、これ、現実なんだよな!?」
「当たり前じゃろ! ここにおるわしは、紛れもなく現実じゃ!」
「本当に? 光さん、消えちゃったりしない?」
「するものか! やることが終わるまでは消えんぞ!」
「ちょっとちょっと、わたしも混ぜてよぉ!」
だけど三人が離れる気配がしなかったから、わたしも割り込んだ。
割り込む、っていうよりは後ろからひーちゃんを抱きかかえる形で「どーん!」って突っ込んだんだけど。
「ぐえっ、い、泉美……さすがに全方位から押し込まれるのはわしもきついんじゃが」
「やだ! もうひーちゃん離さないもんね!」
「あたしも絶対離さねーぞ!」
「わ、私だって……!」
そうして四人で押しくらまんじゅうみたいに、はしゃいでいたんだけど……。
「あのー、お客様? 周りのお客様のご迷惑になりますので、お静かにお願いします」
「「「「あっ、はい」」」」
騒ぎを聞きつけてやってきた店員さんに、怒られちゃった。
うん、当たり前だよね。高校生にもなってものすごく気まずい。
だけど、それでもわたしたちの興奮は収まらない。
「おいおいおい、まさかこんなところでトー子に会えるなんて、人生で一番びっくりしたぜ!」
「まったくよ! 信じられないわ!」
「いや、まったくもって同感じゃ。こんなことあるんじゃのう」
「ひーちゃんがここにいる……ってことは、ひょっとしてこの辺りで何かあるの?」
「うむ……実はその通りでな。詳しくは言えんが、ちょいと面倒なことが起きかけておる」
「なるほど、だから……って、いうかよく見たらひーちゃんそのセーラー服、もしかしなくてもうちの制服じゃない!?」
「そのようじゃな。まあ今日から通い始めたばかりじゃし、今日も午前中しかおらんかったがのう」
「マジか!? マジだな! くっそ、ってことはイズ子だけまたトー子と一緒なのか!? ズルいぞ!」
「本当だわ! うう、私も平良さんの学校にしておけばよかったかしら……」
「待て奏、落ち着いて考え直せ。高校はそんな理由で決めるものではないじゃろ?」
「あのー、お客様……」
「「「「はい! すぐ出ます!!」」」」
また怒られちゃったよ。
いやでも、ある意味当たり前ではある。何せ、五年ぶりにひーちゃんに会えたんだ。わたしだけじゃない、はーちゃんもふーちゃんも、それにひーちゃんだって思うところはたくさんあるはずだもの。
たぶんこのままだと、ここで大声で話し込んじゃうな。二回も怒られてるし、次はレッドカードだろう。これ以上ここにいるのはまずい。
「……よし、外出ようぜ!」
「そうね、このままだと終わらないわ」
「テンション上がってるから、声も大きくなりそうだしね」
「確かに。とっとと支払いを済ませて、どこかで腰を据えて話すとしよう」
そういうことになった。
だけどわたしは、先にレジに向かうはーちゃんとふーちゃんを追いかけることなく、目的だった雑誌に振り返って躊躇する。
ひーちゃんもこれを買おうとしてた。あの頃わたしが教えたこういう分野に、今も彼女が住んでいることが嬉しいけど……でも、どうしたって今ここには一冊しか残ってないわけで……。
「泉美、これはお主が買うといい」
そうやってわたしがためらってると、ひーちゃんは雑誌を取ってわたしに差し出してきた。
「え……でも、ひーちゃんだってこれ……」
「いいんじゃよ。確かに付録は欲しかったが、最悪通販でどうにかできるしのう」
雑誌をわたしに突き付けるような形で、ひーちゃんが言う。
わたしはそれでもまだ、悪い気がして受け取れないでいたけど……。
「じゃから泉美。その雑誌は、読み終わったあとでわしに貸してくれればそれでよい」
「え……」
「あの頃のように、な」
そして彼女はそう言うと。
にっこり、と。あの頃でも滅多に見れなかった、見た目通りの女の子らしい優しい笑みを浮かべたのだ。
それを見た瞬間、何とも言えない高揚感にわたしは胸が高鳴った。
あの頃と変わらないものを見たという懐かしさと、今になっても同じように笑いかけてくれたという嬉しさで、胸がいっぱいになる。
ああ、なんだか涙が浮かんできた。嬉しくって涙が出るなんて、本当にあるんだなぁ。
でも、今ここにある雑誌はまだわたしのものじゃない。それを気にするくらいの心の余裕は、まだ残ってる。
だからわたしは、袖でぐいっと目元をぬぐうと、今の自分にできる精一杯の笑顔をひーちゃんに返すことにした。
「……うん! 楽しみにしててね、ひーちゃん!」
「ああ、もちろんじゃ!」
そうして頷き合って、わたしは雑誌を受け取る。
今再び、わたしと彼女が繋がった。そんな気がした。
「では参ろうか、泉美」
「うん!」
かくして今、わたしたちはもう一度彼女と巡り合った。
この後、わたしたちにどんなことがあるかはわからない。彼女がいるからには、何か事件が起きるんだろう。それは間違いない。
だけど……そんなこと、わたしたちには関係ない。
いや、関係なくはないんだけど……何か起こるって言っても、それで関係を断つなんてあり得ないから。
たとえ何があっても、彼女がわたしたちの親友であることには変わりないから。
だから、ひーちゃん。
もう一度また四人で、一緒に遊ぼうね――!
めでたしめでたし
ともだちの魔法は星の色~その転校生、のじゃロリ魔法少女につき~ ひさなぽぴー/天野緋真 @hisanapopie
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