ショートストーリー「久しぶり」(会話劇)

「久しぶり」


「久しぶりだな。びっくりしたよ。

 日本に帰ってたのか?」


「たまにね。来週には、またロンドンに帰るわ。

 ねぇ、あなた今は何やってるの?」


「相変わらずさ。家継いだんだけど潰しちまって、また雇われで仕事してる。

 君は?

 元気そうだし、表情かおが明るいな。順調そうだ」


「えぇ、順調よ。とっても。何もかもが順調……。あなたと別れてからね」


「痛いな、そのセリフ。

 ――マスターお代わり。スコッチダブルでね――

 君は?」


「――私には、マティーニを――

 私が順調なのは、あなたと別れたこと以外かもしれないわね」


「……結婚は?」


「結婚? してないわ。あなたは?」


「俺? してるわけないだろ」

(いまだに君に未練があるのに)


「あら、良かった。じゃあ、私が日本にいる間にデートしましょうよ」


「デート……なぁ。この後とり敢えず、俺の部屋で飲み直さないか?」


「なんか、やらしいわね。下心あるんじゃないの?」


「下心、そりゃあるさ」

(久しぶりに会ったって、やっぱり君は魅力的だ)

「デートの予定を立てながら、君にキスの一つでもしてやりたくて」


「呆れた。そんなこと、しれっと言えるようになったのね」


「あぁ、君にまた会えたんだからさ、格好つけてるヒマはないよ。時間……ないんだろ?」


「そうね。ふふっ。でも、あなたとは終わったんじゃなかったかしら?」


「終わったけど……。いちから始めればいいよ。俺と君は……今日出会ったんだってことにして」


「うふふ。初対面か」



「「初めまして」」



 グラスの重なる音がする――



 


      了


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