ミニ昔話 花時雨

 雨が、降り続いています

 何里か歩き続けましたものでね

 道中ちょいと疲れました


 茶店で休みをいたしまして

 あんころ餅と

 渋い番茶をいただきました


 眺めがようく目に入ります

 鮮やかな

 山の桜が、景色を桃色に変えて

 ますものですから

 斜めに落ちる雨がまた幻想的です

 それになんだか励まされましてね

 また意気揚々と歩き出しました


 かさみの

 改めて

 しっかり身につけて

 山越えをいたそうと

 身支度を整えました

 さて、と


「夜中に山越えは

 危のうございますから」


 茶店で一服しました折り

 昔は乙女の看板娘が

 良い宿を紹介して下さいました


 宿には何人かの旅人が

 おりまして

 袖擦れ合うも多少の縁

 気が合った若者は

 秘密を教えて下さった


「誰にも内緒ですぞ」

 若者の正体は化けタヌキ


 人間に化けて

 年老いた親のために

 仕事をして

 薬を買って帰るそうな


 花時雨の不思議な

 泡沫うたかたのような時間

 愉快な夜

 私は化けタヌキと

 よもやま話に明け暮れて


 朝には雨が上がり晴れ渡りました

 眩しい朝日

 気づけば

 化けタヌキの若者は

 もういなかった


 私は里に帰る

 タヌキも里に帰るそうな


 早く家族に土産話を

 聞かせたいもんだ


 親孝行な化けタヌキ


 無事に家に辿り着いただろうか?



  了


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