第9話 しばらくのんびりと休んだところで、ステータスなどを確認することにする
しばらくのんびりと休んだところで、ステータスなどを確認することにする。
といってもSPの取得もなく、ユアの方はMINがレベルアップで19に上昇した程度だ。リーンはSTR・VITのどちらもが上昇しており、どうやらレベルアップによるステータス上昇は必ずしも一つに限らないらしいことが分かった。
次いで新規取得アビリティを見ていたユアはあるアビリティに目をつけ、その隣から覗き込んでいたリーンが「むむー?」と興味ありげに声を上げる。
ぴ、と伸びた指が、あるアビリティをタップし詳細を表示した。
【声援】(EXP1,500)
・MP:5.0%
・自分の声援に属性『支援』を付与する
・消費MP量によって効果変動
『属性:支援』
・仲間にかかっているバフの効果を向上させる
「これ!これいーよ!」
きらきらと期待に満ちた目で見つめるリーンにユアは逡巡する。
ユアが目を付けたアビリティは別のもので、現在のEXP的にどちらかしか取得することはできない。
しかし考えてみたところでリーンが喜ぶ以上に有益なことなどなく、ユアはこれ見よがしに呆れたようなため息を吐いて見せながらも【声援】を取得した。なんだかんだリーンには甘い。
「ありがとユアー!」
「その分頑張ってよ?」
「まっかせろーい!」
ならよし、とユアは鼻息荒いリーンの頭を撫でてやる。
それからユアは、リーンの手元のウィンドウを覗き込んだ。
「んー、リーンの方はこれなんていいんじゃない?」
「わかったー!」
ユアが指し示したアビリティを、リーンは詳細すらろくに確認せずに取得した。
それでいいのかと思うユアだったが、まあなんにせよ役に立たないことはないだろうとそこまで深く考えるのはやめにする。なにせあいてはリーンなのだ。
だから代わりにユアがその詳細を表示して、効果を確かめる。
【剣術】ALV.1(EXP1,500)
・剣系統の武器を使用する際に補正がかかる
補正というのがどの程度のものかは不明だが、こういったシンプルな性能のものは強いと相場が決まっている。リーンの性格からして、特に必要な条件もなくただ大剣を振り回すだけで実感できるというのならば是非もないだろう。
どうやらそこまで間違った選択ではないらしいと、ユアはほっと安心する。
ところで、ユアにしてもリーンにしても、どうもこういった技術や職業的アビリティが解放されているらしいということにユアは気がついた。ユアの目を付けていたアビリティも【
そう考えるとリーンの持つ【
ついでに目立つ新規アビリティとしては『陣魔法』や『詠唱魔法』といった各種魔法アビリティがあったが、これは今のところMPに余裕がある訳でもないので放置だ。
「さて、じゃあそろそろ休憩しよっか」
「えー?」
「なんだかんだ一時間半くらいやってるからね」
「はーい」
アビリティの確認も終えたところで、ユアの提案に従い二人はいったんログアウトすることにする。
アバターの作成に始まり移動と戦闘を繰り返しているので、そこそこ時間が経過している。基本的に長くとも連続二時間程度で一度休憩をとるというのがユアとリーンの決め事だった。
それになにより、時間はそろそろ昼時だ。
AWにおいてリアルの空腹感を覚えはしないものの、だからといって放置するのも不健康というものだろう。
ちなみにAWにおけるログアウトには『一時ログアウト』と『ログアウト』の二種類がある。
『一時ログアウト』では意識のないアバターがその場に残される代わりにログインし直した際にその場から再開できるが、ログアウト中でも普通にモンスターに襲われたりする上に他のプレイヤーが意図的に動かすことができないためどこかしらの安全地帯でなければ危険が伴う上に、48時間以内にログインし直さなければアバターが死亡扱いでデスペナルティを負ってリスポーンすることになるというリスクもある。
一方の『ログアウト』は普通にログアウトし、次にログインした時は設定してあるリスポーン位置からの再開となる。どこからでもできる反面冒険の途中などまた移動しなおす必要があるという面倒くさいところはあるが、それ以外にデメリットらしいものはない。
今回ふたりは、特に理由もないので普通にログアウトした。
リスポーン地点として初期登録されているのは『始まりの大陸/始まりの街/中央広場』であり、そう離れている訳でもない。
「じゃーまたむこーでね!」
「はいはい、またね」
ぶんぶん手を振るリーンに振り返し、ログアウト。
『"Another World"を終了しています……』
『".home"を起動しています……』
視界が光に包まれ、浮遊感。
そしてユアが降り立ったのは、いつもの寝室。AWの世界からログアウトしたものの、VR自体は終了していない。それでもなんとなく伸びをして、今度はVR自体も終了した。
『VRから浮上しますか?』
『さようなら、ユア』
視界が暗転する。
浮上するような感覚とともに、まるで今さっきまで眠っていたことに気が付くかのように、綾は目を覚ました。
「おっはよー!」
目覚めるなり、すでにヘッドセットまで脱ぎ散らかした鈴がにこにこと綾を見下ろす。
それを確認するなり、綾は鈴の顔を引き寄せるようにして口づけをひとつ、ふたつ。
AWで我慢した分をリアルで補完し、それから綾は笑う。
「おはよう、鈴」
「えへへ。おはよ」
照れ笑う鈴に手を引かれ、綾は起き上がる。室温低めにしていたとはいえやや蒸れるヘッドセットを外すと、軽く頭を振った。
「ん、かしてー」
「ありがと」
電源の切れたヘッドセットを鈴に手渡し、綾は伸びをする。それから綾はふたつのヘッドセットを持っててってこと洗面所に行った鈴を追う。
洗面所では、鈴がヘッドセットを分解しじゃむじゃむと水洗いしている。水洗いといっても適当に水で流す程度であり、分解できるようになっているパーツもそう多くはないので、大した手間でもない。
しかし綾はそれが終わるのすら待たず、少しだけ自分よりも身長の低い鈴に、後ろからそっと抱き着く。肩に顎を乗せて横から覗き込めば、鈴も横目に綾を見た。
どちらがなにを言うでもなく、そっと唇が触れ合う。
「今日お昼なに食べたい?」
「んー、やきそばー!」
「じゃあそうしよっか」
「やたっ。綾すきー」
嬉しそうに笑った鈴が綾に口づける。
安いなあ、などと笑いながら、綾もお返しをした。
そしてそっと服の隙間から鈴の脇腹に触れると、鈴は「うにゃっ」などとくすぐったそうに声を上げながらぴくっと弾む。
くすくす笑う綾を、鈴は頬を膨らませて睨みつけた。
「もー、やーめーてー!」
「ごめんね。なんか、さっきの鈴かっこよかったなーって思ったら触りたくなっちゃった」
「……もー」
ゲームの中ではやや戦闘狂的な部分を見せる鈴は、それをリアルで弄ると恥ずかしがってしまう。綾の言葉に先ほどAWの中での自分の振る舞いを思い出し顔を赤くすれば、綾は愛おし気に脇腹をもにもにと可愛がる。
「むー、はいっ、おわった!これ入れて!」
ぴくぴく震えながらも手を止めていなかった鈴が分洗ったヘッドセットをそばに置いてあるケースに入れれば、綾は苦笑しながら身を離し、洗濯機の隣、二段のラックに縦に並んだヘッドセット乾燥機にケースごと入れてスイッチをオン。う゛ぃー、と青白い光が乾燥機の内部を照らし、しばし考え込んだ乾燥機のディスプレイが『残り25分』と予定を示す。
「さ、じゃあ頭だけ流しちゃおっか」
そう言って振り向いた綾は、自分を見上げる鈴の視線に気が付きそっと目を細めると、鈴の頬に手を添えた。ゲームではしゃっきりしているのに、リアルだと重力が重たいのか鈴はやや猫背だ。だからこうしてただ向かい合っていると、綾は鈴を見下ろすようになる。
「どうしたの」
さわさわと耳たぶを弄びながら、綾はからかうように笑う。
そんな綾に鈴は応えることなく、綾の空いた方の手を取ると、そっと自分のおなかに触れさせた。
「やーめーてー、じゃなかったっけ。んっ」
くすくす笑う綾への返答は、強引な口づけ。
そのまま壁に押し付けられながら、綾は鈴の服の隙間から直接肌に触れた。
鈴の目がとろんと笑み、そしてそっと唇が離れる。
「あや、やめちゃう?」
こてんと小首をかしげる鈴への返答など、言葉にするまでもなく。
やがて鳴り響くぴーぴーというアラームを、ふたりは聞き逃した。
■
《登場人物》
『
・色魔かな?残念綾だ。なおより質が悪い模様。ゲーム中とかでキスできない分はストックしておいて後払いになる。後払いっていうか、まあだいたいそれでテンション上がっちゃって追加支払いになる訳なんですけど。相手が恋人となると好きあらば触れ合いたくなっちゃう。これでも性欲は薄い方とか自覚してんだぜ。病気だよ。とはいえ実際、したい理由に好きだから以外は含まれないっていう完全純情ガールなんで。そこんとこよろしくな!
『
・ああいう生活感のある(ある?)描写が死ぬほど好き。そしてそれは基本的に鈴としか発揮できない。となればやらぬ訳にはいかんだろうと。でも綾のせいですぐプレイエリア外れやがんだもんなあこいつらよお。ちょっとアピールされると秒で食いつくあたりちょろいけど、多分ずっと綾と一緒に生きてきたからちょうきょ、もとい影響を受けてるんでしょうね。とりあえず「綾」が「あや」になったらおおむねそういうことです。こびっこび。だがそれがいい。
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