第199話 現状の確認
冒険者ギルドに忖度せず、貴族という圧力にも余裕の表情を浮かべているケイタが、ヤスメ副長の目には不思議なものに見えたので、どうしても訪ねてみたくなってしまった。
「何か考えがあるのですか?」
「いえ、別に考えなんてありませんよ。ただ・・・」
「ただ?」
そこでケイタは一旦話を区切り、ヤスメ副長の目をジッと見て来た。
その顔は相変わらず余裕そうな微笑みを張りつかせていたが、目は何かを探る様な真剣さが滲み出ている。
「ただ、そういう傲慢なやり方が気に入らないだけです」
「傲慢・・・」
「ええ、今回の件で言えば、依頼を断ると追っ手を出すぞと暴力をちらつかせ、自分の都合の良いように誘導する。これに私は少なからず傲慢さを感じましたよ」
ケイタの話を聞いたヤスメ副長は、思いがけない言葉にショックを受け、自身を顧みる。「知らない内に間違いを犯していたのだろうか」と。
「私は犯罪者なのですか?それとも何か賞金首の様に追っ手をかけられる事になっているいのですか?」
「・・・いえ。そうはなっていません」
「そうですか、ならば冒険者ギルドの依頼を断ると犯罪になるのですか?」
「・・・いえ。そんな事はありません」
ここまでケイタに話をされて、ようやくヤスメ副長は気が付いた。自分もまた貴族の様に高圧的な交渉をしていたのだと。
冒険者の為という言い訳を盾に、逃げ道を塞ぎ暴力に訴えてしまっていたのだ。
貴族一派を追い出す為とはいえ、同じ様な事をしてしまっていっては本末転倒だ。
ヤスメ副長は項垂れるしかなかった。
冒険者ギルド一行を乗せた馬車がトボトボと去って行くさまを「崖の砦」の前で眺めていた敬太が、ふと口を開いた。
「何だったんだ?」
「さあ・・・わざわざヤスメ副長が来たっすから、それなりに大事な事だったと思うんすけど・・・んー権力争いって所っすかね?」
「ふーん、何か・・・大変なんだな」
戦闘になると踏んでいた敬太達は肩透かしを食った感じになってしまい、嵐のように去って行ってしまった一行については最早、他人事となり薄い感想しか出て来なかった。
「戻りましょうか」
「うむ」
「そうっすね」
敬太が自分の現状を確認する為に問いただした会話以降、すっかり大人しくなってしまったヤスメ副長というギルド職員。結局何がしたかったのだろうか。
現代社会なら電話一つで済む様な用事を、わざわざ馬車に乗り大人数でやって来なくてはいけない異世界に、改めて大変だなと感じた一件となった。
「崖の砦」からの帰り道。
敬太一人の運転になるので面倒だなと思っていたのだが、何故か車内は盛り上がっており、色々な議論がなされていた。
「して、ケイタは貴族らを打ち倒す算段があるのじゃな?」
「そうですね、金属製の壁を畑の周りに作るか、それかダンジョンの入口を金属の建物で塞いでしまうか・・・」
「ふむ。何かしら頑丈な物を作ろうと言うのだな」
「ええ、追っ手が来るのが1か月後という情報が貰えたので基本そんな感じです。とりあえずダンジョンの中に侵入されない様にして、後は合体ゴーレムとかで何とかならないかなと。・・・あっサミー、ちょっと聞きたいんだけど」
「えっ、何すか?」
ここでちょっと思い出した事があったので、助手席に座っているサミーに話を向ける。
「お前、どれぐらいの高さの壁なら登れる?」
「・・・えっと、どういう事っすか?」
「んー、垂直なツルツルの金属製の壁があったとして、何mまでなら超えていける自信がある?」
「あー分かったっす。えっとっすね、道具を使えれば15mぐらいならいけると思うっす。そんで、道具なしなら4~5mぐらいっすかね」
「それって、もっと強い人らでも変わらない?」
「それはプラチナランクとかミスリルランクの事っすよね?」
「そうそう、ギルドの人が1か月後と断言してたから強い奴を遠くから引っ張って来る可能性があると思うんだ」
「そうっすね。王都にまで呼びに行ってる可能性は高いっすね。それで、そうやってわざわざ連れてくる様なミスリルランクなら金属製の壁でも切り裂いてしまうって事もありそうっすけど、壁を登るだけならうちとそんなに変わらないはずっす」
一応ゴールドランクPTの斥候をしていたサミーが言うのだから、敬太やモーブの情報や考えよりは確かなのだろう。
「ふむ。ならばそれよりも高い壁を作る事になるのだな?」
「そうですね。余裕をもって20mの高さって所でしょうかね」
「それは、わしらも手伝えるのか?」
「あっ、うちも手伝うっすよ」
「えっ!?」
ここで思いがけない提案の声があがる。
普段モーブは子供達の事以外にあまり関心を示さないのだが、それでも手伝おうと言ってくれる時もあるので、こちらはいいとしよう。
だが、問題はサミーの方だ。
サミーを捕らえてからこんなに自分の意見をはっきりと言ったのは、ご飯のメニュー以外では初めての事なので、何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうぐらいに衝撃的な事だった。
「サミーも?」
「そうっすよ。これから貴族と事を構えようとしてるんっすから戦力は多い方がいいっすよね?」
「うん、まぁそうだけどさ・・・」
「何が出来るか分からないっすけど、これでもケイタより高ランクの冒険者っすよ」
確かにその通りなのだが、サミーの突然の変わりように付いていけない。
はっきり言うと、今回のギルド職員達との面会でサミーが「帰りたい」と言えば無条件で手放す心積もりだった。
ずっと改札部屋側の小屋に閉じこもり、食っちゃ寝を繰り返していただけで、何の進展もなく役にも立っていなかったのだから当然だろう。もちろんエロい事なんてのも出来て無い。
毎朝、敬太やモーブ達が作業に出掛けて行くのを見ていても何のリアクションも無かったし、子供達が小屋の側で騒ごうが何かを言ってきた事もない。
それなのに、だ。
何か悪いものでも食べたのだろうか?
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