第172話 門

「さて、どうしたもんかね」


 敬太の目の前には、アイアンゴーレムで作り出した門がある。それは、とても重厚に作られていて、人のチカラでは動かせそうな気配すら感じる事が出来ない。


 この問題を解決する方法は二通りあるだろう。


 一つは、人力で動かせるまで扉の厚みを減らしていく方法。

 もう一つは、何か動力を付けて強引に扉を開け閉めさせる方法。


 正直、厚みを減らしていく方法は、折角ゴーレムのおかげで頑丈そうな門を作れたのに、その頑丈だと言う良い所を潰してしまう方法なので、出来れば避けたいのだが、現実的に考えれば、厚みを減らしつつ何かしらの動力で開け閉めする事になるだろう。

 

 滑車や電動ウインチなんかを、何十個と設置し、チカラづくで扉を開閉させる装置を作りだす事は出来るだろうが、いちいち出入りの度にウインチを作動させ、滑車の鎖を巻き上げたりして、一仕事しなくてはならない様な門は、実用性に欠けるだろうし、絶対に面倒だと思う様になってしまう未来が見える。


 実用性と防御力、どちらも大事だし、どちらも足らないと使い勝手が悪くなってしまう。


 過ぎたるは猶及ばざるが如しか・・・。


「ん~、どうやって開ければいいんだろうね・・・」


 重厚過ぎる門の前で、どうやっていい塩梅に持って行けばいいのか思案し、誰に話すではなく、なんとなく独り言ちていた。


 ゴギギギ・・・。


 すると突然、金属が擦れる様な音が辺りに鳴り響き、分厚い鉄の扉が勝手に動き出していた。


 驚いた敬太は、辺りを警戒し【探索】を使って敵影を探したが、スキルが届く範囲には何の影も無く、あれ?っと首を傾げたが、よくよく考えればこのクソ重い門を動かす事が出来る可能性があるのは、それを形作っているゴーレム達だけだという考えに至り、肩のチカラを抜いた。


「もしかして、ゴーさん。扉の開け閉めって出来るの?」


 一応、確認の為に敬太の隣で突っ立ってるゴーさんに話しかけると、直ぐにシュタっと敬礼ポーズをしたので、どうやら扉を動かした犯人はゴーさん達で間違いなかった様だ。


 まだ門から「ゴーレムの核」を抜いていない状態なので、単にゴーレム達が変形している門ってだけなので、ゴーレムが体を動かす様にして、門の扉も動かしたのだろう。


 言わば「ゴーレムの門」だな。


 この様なゴーレムの運用の仕方もあるんだなと、ゴーレムのさらなる可能性に敬太はひとりニヤつきながら、門の扉がゆっくりと開いて行く様子を眺めていた。



 

 結局「ゴーレムの核」を抜かずに「ゴーレムの門」のままで置いておく事で、ヒジぐらいまでの厚みがある、大銀行の金庫室の様な鉄の扉の開け閉めを行う事が出来、ここ数日頭を悩ませていた「門」の問題はあっけなく解決した。

 また、門の開閉はゴーレムの判断によって行われるので、高性能な識別機能が付いた自動扉となり、これまでの原始的な門から飛躍し、圧倒的な防衛力を手に入れたのだった。


 

 その後、改札部屋に戻り、「ゴーレムの門」をダンジョンの入口に作った事、その門はゴーレムで出来ているので「開けて」と言えば勝手に門が開く事を伝え、ようやくモーブ達にダンジョンの中ならば自由にしていいという許可を出す事が出来た。


 しかし、崖の門の方の様子はまだ見て来てないし、多分壊されてしまっているだろうからダンジョンの外へは子供達だけで出て行かない様にと付け加えるのだった。




 夜になって子供達が寝てからは、改札部屋前の小屋に行き、ご飯を食べる様になって幾分元気になったが、ちょっと匂うサミーの世話をした。


「調子はどうだ?」

「・・・ずるずるずる。・・・モグモグ・・・ぼちぼちっすね」


 相変わらず素っ裸で、手錠を手首と足首に嵌められたまま、敬太が「デリバリー」で買って来た、うどんとかやくご飯のセットを器用に頬張りながら、頭がギトギトのサミーは答えた。

 

 もっと「尊師の聖水」の効果があって信用出来るような態度ならば、改札部屋に連れて行ってお風呂に入ってもらってもいいのだが、「尊師の聖水」は効いているのかいないのか、良く分からないし、ハンガーストライキをやっていたのも敬太の信用ポイントを大きく下げていたので、とてもじゃないが改札部屋に入れる気は起きない。


「モグモグ・・・もうちょっとパンと肉を多めに置いていってくれてもいいっすよ」

「あっそう・・・」


 その上、出てくる言葉がこれだ。

 なんだか助けた事を後悔しそうだった。


 敬太としてはエロい事が出来なそうな時点で、もう何処へなりとも好きに行ってくれて構わないのだが、モーブからすれば隠れ暮らしている情報が洩れる可能性があるならば殺した方がいいと思っているだろう。

 さすがに、一度助けてしまった手前「世話が面倒だから死んでください」とも言える訳が無く、頭を抱えてしまいたくなる。


 ウサギの子の事もそうだが、殺されるのを黙って見ていられずに、簡単に助け過ぎているのだろうか?


 この日はちょっとへこみながら、多めの食料と汗拭きシートを小屋に置いて、改札部屋へと帰ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る