第171話 変形
ゴーさんが一通り体を動かした後にシュタっと敬礼ポーズをして問題がない事を伝えて来たので、敬太は足元に寝かせてあったゴーさんの抜け殻であるアイアンゴーレムだった物を【亜空間庫】にしまおうとしたのだが、その時、ひとつのアイディアが閃いた。
「ねぇゴーさん。ゴーさんってさ、鎧とかバングルにスキル【変形】で形を変えられるでしょ?それでさ、その変形している時に『ゴーレムの核』を抜いたら体はどうなるの?」
壊されて動けなくなってしまったのでは無く、意図的に「ゴーレムの核」を抜いて鉄の体と分離させたのに、残された鉄の体がゴーレムの形を保ち続けているのが不思議に感じたのだ。そして、それは門作りに生かせるのではないかと思い付いたのだ。
喋る事が出来ないゴーさんが、イエス、ノー以外の考えを敬太に伝える時は、スキル【通信】でイメージを伝えてきてくる。
本来は離れた場所に居るゴーレム同士で意思の疎通を図るスキルなのだが、ゴーさんはそれを応用して、自分の考えをイメージとして敬太の脳内に直接送り込んで来るのだ。
「なるほど、【変形】で形を変えた時は、形が変わったまま残るんだね?」
敬太が脳内に流れ込んできたイメージに間違いないか、ゴーさんに確認を取ると、ゴーさんは勢いよくシュタっと敬礼ポーズをした。
どうやら、敬太の思った通りの事が出来そうなので早速行動に移すべく、先に進んでしまっていたアイアンゴーレムの中から20体を呼び戻してもらい、【亜空間庫】に入れたら、モトクロスバイクに跨り、ダンジョンの入口まで戻って来ていた。
「ゴーさん、こんな感じにしたいんだけど、出来るかな?」
門を作る予定の場所で、敬太はしゃがみ込みスマホの画像をゴーさんに見せ、どの様な形にしたいのかを説明した。
ここ数日「門」については色々と調べまくっていたので、あれこれと案があるのだが、まずはゴーレム達の【変形】スキルはどの程度の細工の物なら作れて、どの程度の仕上がりになるのか、その辺りも見て行かないとならない。
門扉と言えば蝶番。
今回の門は頑丈に作りたいので、それに見合う頑丈な蝶番が必要になるだろう。
「それで、こうやって中に1本棒を入れて・・・」
ゴーさんにスマホの画像を見せながら蝶番の構造を教えると理解したのか、直ぐにドロリと溶け始め、スキル【変形】を使って大きな蝶番に変わっていった。
敬太は地面に倒れたままの、ゴーさんが擬態している蝶番を持ち上げ、ガチャガチャと開け閉めして動きに問題が無いかを確認した。
「うん。大丈夫そうだね。それじゃこの蝶番を使って観音開きの門を作ってみてくれる?まずは敷鉄板1枚分の厚みの扉でテストしてみよう」
敬太は、連れて来た20体のアイアンゴーレムを【亜空間庫】から出しながら、門作りの指示を出した。すると蝶番に変形していたゴーさんがドロリと元のゴーレムの姿に戻り、敬太が出したアイアンゴーレム達と【同期】をし始める。
お互いの鼻の部分に埋め込まれている「ゴーレムの核」同士を、ちゅーをする様にくっつけ合うのが【同期】スキルを使う時の仕草なのだが、結構可愛らしい動きなので敬太のお気に入りのひとつとなっている。
しばらくゴーレム達の様子を眺めていると、【同期】が終わった4体のアイアンゴーレムが歩み出てきて、同時にドロリと溶け出し大きな塊になったと思ったら、そこから上に伸びて行き、通路を塞ぐ一枚の壁となり、あっと言う間に門が出来上がってしまった。
「はぁ~凄いな・・・」
ゴーレム達が、鎧やバングルに変形するのは知っているので、門も作れるだろうと思っていたのだが、実際に作られていく様子を目にすると、その再現性の高さに驚いてしまう。
敬太がゴーさんにスマホで見せた通りの観音開きの門で、教えた通りの蝶番が使われている。扉の大きさは敷鉄板1枚サイズで、それが2枚あって観音開きの門となっている。全て鉄で出来ているので、扉の重さも敷鉄板と同じで1枚800kgはあるだろう。
このサイズ、重さでもちゃんと扉が開け閉め出来るか確認をすると、かなり重いが、動きに問題は無く、しっかりと扉を開け閉めする事が出来た。
これを自分の手で作るとなったら、どれだけの時間と手間がかかるか想像もつかない程の完成度だ。
とりあえず、テストが上手くいったので、今度は本番に移るとしよう。
連れて来た20体のアイアンゴーレムで門を作る様に指示を出した。
「良し!それじゃあ今度は、ここにいるみんなで門を作ってみて」
敬太の声を合図に、門となっていたアイアンゴーレムがドロリと溶け出し、4体のアイアンゴーレムに一旦戻ると、ゴーレム達が一か所に集まり出し、20体のアイアンゴーレムがタイミングを合わせる様に、全員で一気にドロリと溶け出した。
その様子は正に圧巻で、凄い量の液体状の塊が蠢き、徐々に形を成していく。
スライム状の物が地面から持ち上がり、天井まで到達すると、ダンジョンの通路を完全に塞ぎ、丸みを帯びていた表層が平になって行く。それから次第に門扉の形が浮かび上がり、蝶番などの細かい場所も水面から浮かび上がる様に、はっきりと形作られて行った。
「うほーー!」
出来上がったそれは、正に壁。
試しに手で叩いてみたが、パチパチと敬太の手の方が音を出すだけで、門には一切響いていない。その感触だけでも物凄い厚みがる物だと分かる程だ。
問題はこの分厚い門を開け閉め出来るのかだけど・・・。
敬太は前傾姿勢になり、思いっきりチカラを入れて扉を押してみた。
だが、扉はピクリとも動かず、とても動かせる様な感じでは無かった。
「う~ん。やっぱり動かせないか」
頑丈な門を作れたのは良いが、これをどうやって動かせばいいのか。
敬太は門の前で腰に手を当て、考えを巡らせるのだった。
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