第138話 現実世界
しかし、ヨシオの口調は憎たらしく、高い声も耳に付くが、中々優秀だ。
おかげで、「尊師の聖水」については検証する事が無くなったが、まだまだやる事はある。食休みも出来たので次の作業に移るとしよう。
次はゴーレムの整理をする。
シルバーランクPTにミスリルソードで切り裂かれ、動かなくなってしまったアイアンゴーレムを11体【亜空間庫】から取り出した。
改札部屋にゴロゴロと不格好になってしまったアイアンゴーレム達が横たわる。
「ゴーさん【吸収】しちゃって」
敬太の左手首にバングルとして擬態しているゴーさんに声を掛けると、擬態を解いて小さなアイアンゴーレムとなり、ぴょんと床に飛び降りた。それからシュタっと可愛く敬礼ポーズを決めて、横たわるアイアンゴーレムに向かって行った。
こうやってゴーさんに指示を出したのだが、実はこのスキル【吸収】については未だに良く分かってない。
ゴーさんが壊れてしまった「ゴーレムの核」を欲しがるので与えているのだが、これは何を意味し、どう言う事になるだろうか?
「ヨシオ~」
「ヨっちゃんだシン」
「よ、ヨっちゃん・・・」
「なんだシン」
面倒くせぇ。
「このゴーさんの【吸収】って何か意味があるの?」
「あるだシンよ。あれは『ゴーレムの核』が獲得してきた経験値、スキル経験値を吸い出してるだシン」
「ほぉー、ゴーレム達にも経験値があったんだ」
「そうだシン。ちゃんと強くなるだシン」
そうか、それで壊れた核を放っておくと欲しがるのか。
置いておくより自分の糧にした方がいいもんな。
ゴーさんの様子を見ると、小さい体ながらも機敏に動き、横たわるアイアンゴーレムによじ登っている。そして、切り裂かれ、傷つき、壊れてしまった「ゴーレムの核」を器用に穿り出すと、自分の体に押し込むようにして体の中に取り込んでいた。
あれがスキル【吸収】。ゴーさんの小さな体にどうやってピンポン玉ぐらいある「ゴーレムの核」が入っていってるのかは分からないけれど、ああやって経験値を自分の物にしているらしい。
敬太が出した、動かなくなってしまったゴーレムの核を全て吸収し終えたようなので、残った残骸を【亜空間庫】の中にしまい、ゴーさんに【鑑定】をかけて結果を見てみた。
『鑑定』
ゴーさん(アイアンゴーレム)
レベル 14
HP 52/52
MP 14/14
スキル 同期LV3 吸収LV2 通信LV3 変形LV2
森田敬太の使い魔
へぇー。元の数値を知らないから強くなったのかは分からないけど、ゴーさんもちゃんとステータスあったんだな。
スキルの【同期】はゴーレム達の知識の共有や敬太とのリンク。【通信】は離れているゴーレム達と連絡を取ったり、敬太にイメージを伝える。【変形】はバングルに変わったり、敬太の体を包み込む鎧になったりする事が出来る。
しかし、こうやって改めて見るとゴーさん達って何でも出来るな。
全ては使う人次第って訳だ。上手く使ってやらないと。
翌日。
晩飯の時も寝ていたゴルが回復したのか、眠っている敬太の枕元でジッと顔を覗き込んでいた。なんだか起きるのを待ってたみたいだ。
「おはようゴル、大丈夫か?」
「ニャーォ」
不穏な気配に目が覚め、目の前にいたゴルに声を掛けると、敬太の顔に頭をグリグリと押し付けてきた。昨日怖い思いをさせてしまったので、甘えん坊モードなのだろう。すり寄るゴルを自由にさせながら、【鑑定】でゴルの状態を確認して見たが、特に問題は無く、きっちりHPもMPも回復していた。
ずっと眠っていたので心配だったが、何もなくて良かったよ。
「おっちゃん腹減ったー」
「おはよ~」
ゴルとフガフガンゴンゴ言いながら遊んでいたら、子供達が起きだして来た。どうやらうるさくして起こしてしまった様だ。
改札部屋と言う大部屋での共同生活。色々と筒抜けになってしまうが、起きてすぐ挨拶を交わす様な生活は嫌いではなかった。
「おはよう、それじゃ顔洗って朝ご飯にしようか」
今日は、父親の様子が気になるので出かけるつもりだ。追っ手の方も心配なのだが、父親の方もハイポーションを飲ませてからどうなったのかを見届けてないので、一度戻って、退院出来るなら退院させて、施設にも連絡しておきたい。こちらも放っておく訳にはいかないのだ。
午前中の内に、元気になったゴルと8階層までの殲滅作業を終わらせ、朝食の時に事情を話しておいたモーブに後の事はまかせると、午前11時には改札部屋を後にした。
駅に戻ると、メールが届きスマホが圏外から復活した事に気が付いた。
メールを開くと兄からで、やはり父親の退院の事だった。病院から連絡があったらしく、退院したらどうするのかと言っている。
父親の事を敬太に投げっぱなしなのは前からだ、今更、兄に文句は無い。
今日中に引き取って、空いていれば前と同じ介護施設に入れる、と返信しておいた。
いつもならタクシーを使って、病院やら介護施設に行ってしまう所だが、軽トラとかの乗り物のガソリンが無く、携行缶も空なので、ガソリンスタンド巡りもしなくちゃいけない状態だった。なので、タクシーで実家まで行った後は、自分の乗り物で移動するつもりだ。
「ピピッ」
「はい、ありがとうございましたー」
残高が4千万円ぐらいある魔改造ススイカでタクシーの代金を払い、久々の実家に戻って来た。
ここで【亜空間庫】の中から軽トラなんかを取り出すのは、ご近所さんの目もあるので、改札部屋のガレージから「車両戻し」を使って軽トラと4WDのジープとモトクロスバイクを実家の駐車場に戻しておいた。全部ガソリンが空に近いので、全部給油しないといけない状態だ。
ちなみに「車両戻し」は、敬太が駅からススイカ(改)で飛ぶ時と同じ様に、認識阻害が働いているらしく、駐車場に突然車が現れても気が付かないし、違和感を感じない様になっているらしい。
どういう理屈なのかは知らないけれど、兎に角そう言う事らしい。
さて、まずは軽トラに乗って実家を出る。どの車両も、うろうろ出来る程ガソリンが残ってないのでガソリンスタンドに直行する。
最寄りのガソリンスタンドに向かい、行き慣れた道を走り、信号で止まった。
運転中に無音では寂しいので、AMしか入らないがラジオを聞いている。
ラジオから流れる曲はひとつも聞いた事が無く、すっかり世の中の事に疎くなってしまっている事に少しショックを受け、知らない間に出来ていた新しいコンビニを発見し驚いていた。もう1年以上ダンジョンに潜っているからなぁ・・・。
その時、突然後ろから物凄い衝撃を受けた。
ドゴッと車がぶつかった様な衝突音も聞こえた。
敬太の体は、後ろからロウカストに突き飛ばされた様に吹き飛ばされ、何処かに頭をぶつけ、フロントガラスが目の前に迫っていた。
体は浮き上がり、外の様子がスローモーションの様にゆっくりと見える。
どうやら後ろから追突されたらしく、敬太の軽トラが前に進んでしまっているのが分かった。ブレーキから足は離れていないのだが、追突の勢いには負けるらしく、制御不能になってしまっている。
前にはコンテナを積んだトレーラーが信号待ちで止まっていて、どんどん近づいてきていた。「ハンドルを切らないと」と考えたが、実行に移す前に軽トラはトレーラーに突っ込んでいた。
フロントガラスが割れ、あちこちをぶつけ、訳が分からなくなった所で追突の勢いが弱まり、車の動きが止まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます