第96話 フォレストウルフ

「ふ~、強引なチカラ技だったけど、何とかなったね」

「ニャー」

 

 川の水を【亜空間庫】にしまうという大技を繰り出し、群れていた肉食系モンスターのラーバ達を一網打尽にした敬太だったが、その際、川の中に飛び込んでしまったので服がビショビショになってしまっていた。このままでは気持ち悪いので、大自然の中で素っ裸になり、タオルで水気を拭いて、新しい服に着替えた。


 タオルで髪の毛を拭き、さっぱりとした所でなんとなく空を見上げると、早くも日が傾き始めてしまっている。


 とりあえず、ラーバの死体を冒険者ギルドに見せてみて判断を仰いでみるか。

 これで依頼達成になればいいのだけれど。


 今からの予定を考えながら、頭の中の地図を見ると、今いる位置はアイン鉱山の近くの様で、随分と北上して来ていたらしい。ここからなら北門に戻るのが早だろう。


 敬太はラーバがいたソフト川から歩き出し、街の方へと戻って行った。





 マシュハドの街の北門から、アイン鉱山まで続いている石畳の街道がある。譲り合う事無く馬車がすれ違えるように道幅は広く、しっかりと手入れがされていて街にとって大事な道なのが窺える。アイン鉱山の麓の森を貫くように作られ、鉱山の門まで繋がっているのだが、その街道を猛スピードで走っている1台の幌馬車がいた。


 後5分も走れば鉱山の門に辿り着きそうな場所なのだが、何を急いでいるのか、凄い勢いで馬に鞭を入れ走っている。


「旦那!もうダメです。ケツに噛みつかれそうですぜ!」

「もう少しなんだ!どうにかならんか!」

「数が多くて手に負えませんぜ!」


 旦那と呼ばれている少し頭が薄い男は、御者台に座り懸命に鞭を入れている。その男が操る幌馬車は、オオカミ型のモンスターの群れにつけ狙われていて、今にも飛び掛かり噛みつかれそうな距離まで詰められていた。


「ウォンウォン!」

「旦那っー!」

「ええい仕方が無い!どれでもいいから『餌』を一つくれてやれ!」

「分かりやした!」

 

 御者台に座る頭の薄い男に指示された男は、一番近くに居た「餌」を荷台から放り投げた。


「キャアアアアア!」


 幌馬車から投げ出された「餌」は大きな悲鳴を上げながら地面に叩きつけられるとゴロゴロと転がり、そこで動かなくなった。すると幌馬車を追いかけていたオオカミ型モンスターは足を止め「餌」の周りを取り囲み始める。


 どうやら爆走していた幌馬車は、鉱山奴隷達を運んでいた奴隷商だったようで、モンスターから逃れる為に「餌」として1人の奴隷を投げ捨てた様だ。そのおかげでモンスターの気を逸らす事に成功し、鉱山の門の中へと辿り着く事が出来たようだった。


「旦那ぁ~。危なかったですぜ、もう少し早く「餌」を撒かしてくださいや~」

「そう言うな。「餌」とは言え無料ただじゃないんだ」

「そうですが、あっしは肝冷やしましたぜ」

「まぁ、無事に着けたんだ。いいじゃないか。がははは!」


 2人の男は鉱山の門の中に入ると軽口を叩き、自身の無事を喜んでいた。彼ら奴隷商にとっては奴隷とは単なる商品であり、撒き餌として使うようなでしかなかったようだ。


 「餌」として幌馬車から投げ捨てられた奴隷は、頭から血を流したまま気を失い、オオカミ型モンスターに囲まれ、その餌食になろうとしていた。





 ちょうどその頃、敬太はアイン鉱山の麓の森を抜け、街道に辿り着いた所だった。

 森がいきなり開け、そこに太く大きな街道が姿を現した時には、その広大さに人のチカラの凄さを改めて感じ、少し感動してしまっていた。


「凄いなぁ」

「ニャー」


 のんびりと散歩気分で街道を進み、石畳の歩き心地を堪能していると、突然カチッカチッっと、バングルに擬態しているゴーさんが体を打ち鳴らし、警戒を促して来た。


「【探索】!」


 何が来たのかと、状況確認の為にすぐにスキルを使う。すると街道の前方に8匹で固まっているモンスターの群れがあった。離れている所なら無視するのだが、生憎と進行方向の街道上にたむろしているようだった。


「ゴル、気を付けてね」

「ニャン」


 ゴルに声を掛けてから駆け出し、モンスターを目視できる位置までやって来た。

 前方に見えるオオカミ型モンスターは、何かに集まるようにして輪になっている。食事中なのだろうか?



『鑑定』

フォレストウルフ

森を好む狼。雌雄のペアを中心とした社会的な群れを形成する


弱点 玉ねぎを食べるとクラクラしちゃう



 フォレストウルフ。群れる狼らしい。

 とりあえずモンスターなので倒した方がいいのだろうか?

 なんだか大きい犬みたいなので害が無かったら、モフモフしてみたいところなのだが・・・。


 一応、腕がランスになっている「実働部隊」のアイアンゴーレムを【亜空間庫】から10体だけ出して、警戒はしておく。


「ゴーさん、警戒だけしておいて。こっちからは手出ししないでおこう」


 ゴーさんに指示を出し、ゆっくりとフォレストウルフの群れに近づいていく。


 群れのかなり近くまでアイアンゴーレムを従えて歩くが、フォレストウルフ達は何かを食べるのに夢中で、敬太に襲ってくるような事は無く、口の周りを血で濡らし、ちらちらと敬太の様子を見るだけだった。そこから敵意が感じられないので、殺し合いにはならないで済みそうだと、胸を撫で下ろす。


 どうせならモフモフを少し撫でてみたいな、などと考えながら、フォレストウルフ達の脇を通過していく。そこで、ふと何を食べているのかな?と気になって齧りついている物を覗き込んだのだが、それを見た瞬間、敬太の足が止まってしまった。


「やめろーーーー!!」


 敬太は大声を上げて、フォレストウルフを威嚇した。何故なら、そこでかじられていた物が「人」だったからだ。

 腕や足、それに顔までもかじられ、体中血まみれになっていて性別すら判断出来ないぐらい食い散らかされている。肉がちぎられ皮が飛び散り、白い骨が見えた。これでは既に死んでいるのかもしれない。


「ゴーさん。お願い!」


 それでも敬太は人間が食べられていると言う状況を見ていられなかった。

 「実働部隊」を使い群がっているフォレストウルフに攻撃を仕掛ける。

 それから新たにアイアンゴーレムを【亜空間庫】から10体出し、齧られていた人間を守る様に取り囲ませた。


 これ以上はやらせない。

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