第93話 稼ぎ

 翌朝、コンテナハウスの中で優雅に朝食を済ませてから外に出ると、出入り口の脇に薬草の山が出来上がっていた。

 見た感じ数百本、いや千本ぐらいはありそうな大きさだ。


「ゴーさん、ありがとう。もう十分だからみんな集めて」


 思っていたよりも薬草の山が大きく、少し焦りながら放っていた「偵察部隊」の帰還命令をゴーさんに出してもらう。敬太の左手首に腕時計の様にしてくっついているゴーさんは、シュタっと敬礼ポーズをして「了解」と示してくれた。


 寝床として出していたコンテナハウスと薬草の山を【亜空間庫】にしまい、ガサガサと草をかき分け森の中から戻ってくる石ころに擬態したストーンゴーレム達も、帰って来たそばから回収する。


 しばらくしてから、ゴーさんにはぐれた者はいないか確認すると、全ての回収が済んだとの事なので、受けていた依頼の報告をしにマシュハドの街に戻る事にした。



 アイン鉱山とマシュハドの街を結ぶ道を、ゴルと共に15分ぐらいジョギングすると、街を出た時に通った北門に辿り着いた。門番に首から下げている冒険者ギルドの認識票と依頼書を見せると、何も要求される事なく通してくれた。またハムでも渡そうと思っていたのだが、案外ちゃんとしていたので感心した。


 街に入り、工場地帯となっている北町を抜け、南門近くにある冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドに辿り着くと、昨日よりも人が多くて少し混み合っていた。受け付けのカウンターには列が出来ていたので、敬太もそれに従い一番短い列の後ろに並び順番を待つ事にする。


 程なくすると敬太の番になったので、昨日壁から剥がした依頼書とゴーさん達に採ってもらった薬草20本をカウンターに乗せる。


「達成報告ですね。少々お待ち下さい」


 昨日、登録の手続きをしてくれた女の職員とは別の若い女の職員が、テキパキと動き書類を引っ張り出して薬草の本数を数えている。


「はい、確かに20本ですね。報酬は大銅貨4枚となっていますが、え~っとケイタさんは登録料と代筆料がまだのようなので、今回の報酬から頂きますね。え~っと、そうしますと今回は差し引き0となりますが、ご了承下さい」

「はい、大丈夫です。それとですね、まだ薬草があるのですが、それも買い取って貰えますか?」

「ええ、問題ありません。何本ぐらいあるのでしょうか?」


 追加の買取も大丈夫そうなので、背負っていたハードシェルバッグに手を突っ込み、中で【亜空間庫】を開き、薬草を取り出してカウンターに置いていく。

 20本、40本・・・。バッグの中に居るゴルに前脚でちょっかいを出されながらも、無表情を保ち手を動かす。

 薬草は1000本近くあるので、どんどんカウンターに出して行ったのだが、100本程乗せた辺りで声がかかる。


「え~っとちょっと待って下さい。まだあるんですか?」

「はい、まだあります」


 敬太が答えると、若い女の職員は後ろを振り返り急に大声をあげた。


「すいませ~ん!今日って薬草、後何本ですか~!」

「80本だよ~!」


 すると奥の方から男の人の声が返って来た。


「すいません。え~っとケイタさん。今日ギルドで買取できるのは80本なので、先程受け取った20本もありますので、え~っと残り60本だけ買い取れるのですが、それでよろしいですか?」


 ギルド内に、納品上限数とかがあるのだろう。


「分かりました。それでお願いします」

「はい、それでは少々お待ち下さい」


 敬太は余計に出してしまった薬草をしまい、女の職員は薬草の本数を数え始めた。



「はい、ではえ~っと銀貨1枚と大銅貨2枚になりますね」

「・・・ありがとうございます」

「はい。お疲れ様です」


 女の職員は薬草の本数を数え終わると、一旦奥に引っ込みお金を持ってきて渡してくれた。薬草20本で大銅貨4枚、それが60本で大銅貨12枚。そこから計算すると大銅貨10枚で銀貨1枚になるようだ。


「あっすいません。後ですね、コレは買い取ってもらえますか?」


 昨日、薬屋のおばあちゃんが言っていた、ハムなら冒険者ギルドでも買取出来るかもしれないってのを思い出し、カウンターにハムを置いて尋ねた。


「これは、何でしょうか?」

「はい、豚の塩漬けです」

「『豚』ですか?聞いた事ないですね・・・少々お待ち下さい」


 女の職員はハムを持って奥に消え、しばらくすると帰って来た。


「お待たせしました。え~っとですね申し訳ないですが、うちでは買取出来ません。こちらは『商人ギルド』の管轄になりますので、そちらの方に持って行ってみて下さい」

「あぁ・・・分かりました」


 ワンチャンいけるかもと思ったのだが、そう上手くはいかなかった。やはりハムを売り捌くには商人ギルドに登録しないといけないらしい。


 敬太はカウンターを離れ、異世界のお金を見つめる。現実世界の物と比べると、ぼでっとした印象を受ける硬貨。これでどれぐらいの価値になるのだろうか?


 目的のハイポーションは金貨32枚。商人ギルドの登録料は金貨1枚。まだまだ稼がなければいけないようだ。

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