第75話 お迎え
移動を開始して2時間ぐらいすると日が傾き始めてきたのだが、追っ手に見つかった場所からそう離れていなかったので足を止める事は無かった。
辺りがすっかり暗くなってしまってから、なんとか崖が崩れている場所まで辿り着いたので、そこまで行ってようやく足を止めた。
「今日は、この辺りで休みましょう」
「うむ。そうじゃな」
絶対に安全だとは言えないが、高い崖の陰に身を潜めていれば見つかりにくいだろうと考え、ここまで歩いてきた。
小さな子供達には大変な距離だったかもしれないが、文句ひとつ言う事無く懸命に歩いて付いてきてくれていた。幼いながらも空気を読んで頑張ってくれたのだろう。
子供達を労い、パンを食べさせると疲れていた子供達はすぐに眠ってしまった。
モーブの方を見ると戦利品の短槍を抱え、辺りを警戒している。
「モーブ、ここは任せていいですか?」
「うむ。構わんが、どうするんじゃ?」
「一旦帰ります。ですが、すぐに戻ってくるつもりなので夜明けまではこの辺りに居て下さい」
「うむ。そうか・・・」
モーブはそれ以上細かい事を聞いて来なかった。敬太の事を信用していないのか、優しさから聞いて来ないのか判断はつかないけど、とりあえず言う事は聞いてくれるらしい。
モトクロスバイクに無理やり積み込んでいた皮の鎧や剣なんかの戦利品を降ろし、持って来ていた食料品とかの大きな荷物も降ろして身軽にする。
「それじゃ頼みます」
「うむ」
キュルルとセルを回しモトクロスバイクのエンジンをかけ、すっかり暗くなってしまった雑木林の中を突き進んでいく。
以前の敬太ならば暗闇の雑木林の中をバイクで疾走するなんて芸当は出来なかったが、ここでも新しく買ったスキルが役に立っていた。
【梟の目】500万円と高かったが、暗闇の中を見通せる、正にフクロウの目。
今までダンジョンの中ではライトが必要不可欠だったのだが、このスキルを買ってからはライトがいらなくなった。色味は薄れ白黒にしか見えないが、何処に何があるか暗闇の中でもはっきりと捉える事が出来き、動き回る事が出来るのだ。
そんな【梟の目】があるので、夜道の疾走なんて朝飯前だった。
昼間と同じ様に見える道を、昼間と同じスピードで走り続け、ダンジョンの入口の洞窟に辿り着く事が出来た。
モトクロスバイクに乗ったままダンジョンの中に入り、広く拡張された通路を進むと、敬太に気が付いた巡回中のゴーレムがシュタッっと敬礼ポーズをして擦れ違いざまに挨拶をしてくるので、敬太も左手を上げてゴーレム達に挨拶を返しながら走り抜けていく。
今やダンジョン内の階段は全てゴーレム達によって埋められスロープになっているので、いちいちモトクロスバイクを降りる事なく、そのまま改札部屋前に辿り着ける様になっている。
駐車場のカモフラージュされている引き戸を開けてモトクロスバイクを止めると、すぐに止まっている軽トラに乗り込み発車させる。
アクセルを踏み込み、立体駐車場のスロープの様になっている階段を上がって行って、ゴーレム達によって十分に広げられた通路を走って行く。
ダンジョンの外に出ると真っ暗な雑木林が広がっているが、軽トラのヘッドライトとスキル【梟の目】と頭の中の地図で問題なく走る事が出来た。
連日バイクで探索しながら見つけていた、木々の間隔が広く車でも走れるルートを突き進み、モーブ達の元へ走って行く。
空が白じみ薄っすらと辺りが明るくなった頃に、ようやくモーブ達を待たせている崩れた崖の傍まで戻って来れた。
車で通れるルートだと道順が限定され、あっちこっちとジグザグに雑木林の中を走り続け、4時間弱。往復にすると7時間ぐらいかかってしまった。
夜通し走り続けて疲れているが、襲ってきた追っ手がまだ近くに潜んでいる可能性があるので、気は抜けない。
「おーいモーブ。いますか~!」
軽トラのクラクションをプッと短く鳴らし、窓を開けながら声を上げると、短槍を手にしたモーブが木の陰から出てきたので、ホッと息を吐いた。
「うむ。ケイタじゃったか」
「よかった。大丈夫でしたか?」
「うむ。静かなもんじゃったわ」
「子供達は、まだ寝てますか?」
「いや、起きとるぞ」
子供達は早起きなのか、敬太がクラクションで起こしてしまったのかは分からないが、すぐにこの場所から移動したかったので丁度良かった。
「それじゃあ、この荷台に乗って下さい」
「うむ。これまた奇妙な荷車じゃな」
今いる異世界に「車」があるのかどうかは知らないけれど、敬太の焦る気持ちが伝わったのか、モーブは見慣れない車に警戒する様子も無く、すぐに子供達を迎えに行った。
敬太はこの間にモトクロスバイクから降ろしていた、追っ手から剥ぎ取った荷物や、食料が入っている登山リュックなんかを軽トラに積み込んでおく。
移動する準備が整うと、うっすら明るくなってきている雑木林の中からモーブに連れられた子供達が姿を現した。
犬の耳を頭の上に付け、茶色い尻尾を垂らしている犬族のクルルン。
三角の耳が頭に付いていて耳の縁は黒く、こげ茶色の太い尻尾を垂らしている狸族のテンシン。
「ゴルベのおっちゃんだ」
「へんな荷車~」
2人とも背の高さは1mぐらいしか無く、かなり幼い。そのせいか子供達の会話はいつもこんな調子だ。
「乗って下さい、すぐに出発します」
「うむ」
「はーい」
「は~い」
モーブ達を荷台に乗せると軽トラをすぐに走らせ、崩れた崖の傍から離れて行った。
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