第74話 責任

「大丈夫ですか?」

「うむ。すまない」

「いいです、気にしないで下さい。それより追っ手は、これで全部倒したと考えていいのですか?」

「いや、それは分からん。わしらはいつも襲われる側じゃ。奴らがどう動いてるかなんて知らん」


 そうだった。

 モーブ達は人目を避け、誰も来ないような所に隠れ続けていたんだった。

 追っ手の情報なんて入ってくる訳が無いのは少し考えれば分かる事だった。


「これからどうするんですか?」

「うむ・・・。また逃げるだけじゃな・・・」


 モーブは色々と諦めているのか自嘲気味な答えだった。


 敬太は腕を組み少し考えた。

 もしかして、今回の追っ手の襲撃を許してしまったのは敬太のせいではないのだろうか?


 まずモーブ達に餌付けの様な事をしてしまった。敬太のエゴで勝手に食料を渡し続けてしまっていた。そのせいでモーブ達は無暗に移動出来なくなり、敬太が探し出しやすい位置に居座り続けるようになってしまったのではないだろうか。

 「また来ます」なんて言われたら、施しを受けている側からしたら、拠点を移動させ辛いだろう。また食料を持って来てくれるならば「ここに居ますよ」って示しておかなくてはならない、と思うようにしてしまったのではないだろうか。

 そしてそれは、追っ手側から見ると「見つけてください」と言ってるのと同じ事だったのではないだろうか?


 考え過ぎなのかもしれないが、敬太がモーブ達と接触していなければ、今回の襲撃は未然に防げたのではないだろうか。

 そうなるとヤムンとチャオを殺してしまった責任の多くは敬太にあると思わざるを得なかった。


 中途半端な偽善がどうしようもない結果を招いてしまったのかもしれない。


「ダンジョン《うち》に来ますか?・・・いや来て下さい」

「うむ・・・。いやしかし・・・」

「少し遠いですが大丈夫です。クルルンとテンシンを連れて来て下さい」


 敬太は覚悟を決めて、責任を持ち全面的に面倒を見るつもりでモーブをダンジョンに誘った。あそこならば追っ手に襲撃されても跳ね返せるような作りに改造できるし、ゴーさん達もいる。今いる森よりは安全だろう。


「追っ手がまだいるかもしれません。手早くヤムンとチャオを弔って、ここから移動しましょう」

「うむ。何にせよ、ここに居座り続けるのは危険じゃ」


 とりあえず敬太のダンジョンに向かうかどうかは置いといて、全員で手早く墓穴を掘った。

 モーブの鉄パイプや拾ってきた木の枝を使い、大きな木のたもとに、小さな穴を掘る。

 それからモーブと敬太で遺体を1体ずつ抱えて、クルルンとテンシンが切り離されてしまった頭部をそれぞれ抱きかかえ、墓穴に埋葬した。

 こんな形でしか外される事が無かった奴隷の小さな首輪が2つ、空しく地面に転がっているのをしばらく見つめてしまう。


 

 敬太が倒した追っ手を確認すると、3人とも息は無く死んでいた。

 敬太がぼんやりと感傷に浸っている間に、モーブが落ちていた短槍できっちり止めを刺してくれたようだ。


 子供の首が切り飛ばされ殺されているのを目の当たりにし、怒りと、恐怖から「殺られる前に殺らなければ」という思いで3人組を倒してしまったのだが、それでも殺してしまう程では無かった。傷付き、気を失っている程度だったはずだ。だが、モーブからすれば追っ手を殺してしまうのが、自分たちが生き延びる事に繋がるのだろう。


 敬太がとやかく言う事では無かった。


 モーブと子供達を見ると追っ手の装備を剥ぎ取り、漁っていた。なんとも切り替えが早く、浅ましくも逞しいところを見せられて感心した。


 子供達に手招きされ敬太も革の鎧を剥ぎ取るのを手伝う。

 子供達は所持品を漁りコインの様な物や、ナイフをなんかを剥ぎ取っていた。

 追っ手は死んでしまっているので文句は無いのだが、この光景は実際に現場に居合わせると何とも言えない気持ちになってしまう。


 不意にとトンと後ろから肩を叩かれたので振り返ると、モーブが1本のアルミの矢を渡してきた。どうやら敬太がクロスボウで首に打ち込んだやつを引き抜いてきてくれたらしい。


「ありがとうございます・・・」

「うむ」


 敬太も矢を引き抜いて持って帰らないとなぁと考えていたのだが、ちょっと死体の首から引き抜く勇気がなかったので目を逸らしていたのだ。それをモーブが代わりにやってくれたので助かってしまった。


 モーブの姿を見ると血が付いた短槍を手にしている。あれで止めを刺してくれたのだろう。敬太には「殺すな」とも「殺してくれてありがとう」とも、どちらが正しく、どうすれば良かったのかは分からなったので何も言えなかった。

 モーブ達が生きていく事を考えると止めを刺して殺すのは当然なのかもしれない。

 敬太だけが覚悟も無く、甘い考えなのだろう。改めて思い知らされてしまった。


 殺した男達は身包みを剥がし打ち捨てたまま、敬太のモトクロスバイクまで戻り、剥がしてきた戦利品を出来るだけ積み込んだ。


 敬太は、みんなに「ちょっと待ってって」と断りを入れてヤムンとチャオを埋めた場所まで戻り、墓前にそれぞれが好んで食べていた菓子パンを1個ずつ置いて手を合わせた。


「ごめんな・・・」


 目を瞑り、自分の考えの甘さを反省し、許しを請う。


「何でパン置いてるの?」

「何してるの?」


 後ろを振り返ると、生き残った子供達が不思議そうに敬太の事を見ていたので、


「お腹がすいたら困るだろ」


 と、答えてやると微妙な反応をしていたが「弔いの心」は伝わったようで神妙な顔をしていた。


「さて、行きましょうか」


 あまりのんびりとしている訳にもいかないので、みんなに声をかけて移動を開始した。

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