妹のことが好きな奴がいるなんて信じたくない

 翌日、教室に入った途端、克紀が駆け寄ってきた。


「おい! 何で昨日遊べなかったんだよ!? 女か!? 女でもできたのか!?」


 ああ、忘れてた……。そういえば、昨日克紀の遊びを断っていたんだった。


「うるせえな……。朝から怒鳴んな。頭痛い……」


 ため息を吐きながら、彼の言葉を無視し、自分の席に着く。


「俺の話聞いてた!? 何で急に断ったんだって聞いてんだよ!」

「あー……用事ができてな」

「用事って何だよ! どうせ女と遊んでたんだろう!?」

「違うって。本当に用事ができたんだ。もうこの話は終りな」


 無理矢理終了させ、スマホをいじり始める。


「なんだよ、つれねぇ奴……。次は俺と遊ぶんだからな!」


 そう言い残し、そそくさとその場を去って行った。


(どんだけ俺と遊びたいんだよ……)


 そのことがとても嬉しくて、俺と遊びたいと思ってくれる奴がいることが心底幸せに思った。





 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 学校から帰ると、まふゆはまだ帰っていなかった。

 疲れる学校生活を癒してくれる唯一の光がいないことが、こんなにも俺を暗い闇の中へと引きずりこむ。


 自分の部屋へと入り、鞄を机の上に置き、ふと窓を見るとちょうどまふゆが帰って来た所だった。


「まふゆ──」


 窓を開け、彼女の名前を呼んだその瞬間、彼女の隣には男がいることに気がついた。

 それも、見覚えのある男。

 昨日、家に来た空とかいう男だ。



 え、え、え……? 何であの男がまふゆの隣にいるんだ……? まさか、一緒に帰って来た……? いや、でも今までまふゆが男と帰って来たことなんてなかった。


 一瞬にして思考回路がめちゃくちゃになる。


 ふう……と大きく息を吸って、吐く。

 改めて良く考えると、やはり一緒に帰って来たとしか考えられなかった。


 その時、その男と別れ、家に入ってきた。


「ただいまー」というまふゆの声と同時に部屋を飛び出す。




「まふゆ!」


 あまりにも血相を変えた顔をしているのだろう。彼女はビクッとした。


「ど、どうしたの……?」

「さっき……誰と帰って来た……?」

「誰とって、空君とだよ?」


「空」という名前を聞いた瞬間、一瞬頭が真っ白になった。

 俺だってまふゆと一緒に学校から帰って来たことがないのに。


「どうして?」


 俺の気も知らないで、キョトンとした彼女の顔が俺を見る。


「な、仲良いんだな……」

「うん、最近仲良くなったんだ。一緒に帰ることも多いしね」




 何……だと……?

 今日だけじゃなくて、今まで何回も一緒に帰って来ていたのか。

 そんな絶望なことはない。



「そ、それはまふゆから誘うのか……?」

「ううん、空君から誘ってくれるんだよ。昨日の勉強会も、私がわからない所があって悩んでいたら、向こうから教えてあげるって言ってくれたんだ」


 俺の気持ちを微塵も知らない彼女はニコニコ笑って彼とのことを話す。


「へ、へぇ……」



 向こうから、ということはまふゆは|空(あいつ)のことはどうも思っていないのだろうか。

 いや、それはまふゆから見た側からであって、あいつはどういう思いでまふゆを誘っているのかわからない。


 俺ならどうだ? もしクラスにまふゆ好きな人がいたとして、どう話しかける?どう接する?


 少し考えて、彼の気持ちが全身を流れるように理解できた。


 勉強を教えるという理由をつけては彼女に接触する。もちろん、一緒に帰りたいなんて、当然思うことだ。



 そう、彼はまふゆのことが好きなのだ。



 何だ……そういうことか……。

 そうだよな。まふゆ可愛いもんな。クラスに1人や2人まふゆのことが好きな奴がいててもおかしくないよな。

 俺だってまふゆのことが好きなんだ。誰にも負けないくらい。


 だから、どんなに叶わない恋だとしても、誰にも負けたくない。できることなら……。



 思わず涙を流してしまいそうになり、咄嗟に上を向く。


「どうしたの? お兄ちゃん」

「あーー……」


 涙を堪えるのに時間を有した。

 少し経ち、まふゆを見て、ニコッと笑った。もちろん、作り笑いだ。


「何でもないよ。ちょっとやりたいことあるから、部屋に行くな。色々聞いてごめん」


 そう言って、彼女の返事も聞かずに階段を上がった。




 部屋のドアをゆっくり閉め、ゆっくりとベッドに寝転がった。



 まふゆは可愛い。そんなこと、誰よりもわかっている。

 それなのに、まふゆのことが好きになる奴が現れるなんてこと考えたこともなかった。


 あいつがまふゆのことを好きだとして、まふゆもあいつのことが好きなら──。

 その先のことなんて、考えたくもなかった。



 その時、外から男女の声が聞こえた。


「やだー、も〜」

「じゃあ、俺の家寄ってく?」

「行く行く!」


 どうして今の俺がカップルの会話なんて聞かなきゃいけないんだ……。


 俺も、自分の気持ちを伝えることができたらな……。

 永遠に伝えることができないこの想いをどこにぶつければ良いのかわからなかった。

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