第307話 撤退戦(18)


「案の定か……」


 壁の横走りし――、後方まで向かい目視で見えてきたところで、戦国無双ギルドの連中が必死にモンスターからの攻撃を防いでいる傍ら――、日本刀を構えたまま震えて動けない相沢の姿が視界に入る。

 やはり、恐怖というものを短時間では克服は出来ていないようだ。


 ――だが、待っている時間も無かった。


「待たせたな!」


 後方に到着。


「ピーナッツマンさん、仲間を助けてください……」

 

 肩から血を流している織田が見ている方角。

 そこには、藤岡史郎という男が右腕をモンスターに食われ――、さらに血塗れで触手に捕まれ中吊りにされていた。

 さらに、モンスターはバラバラにして喰おうとしているのか、メキメキという人体を引き裂く音が聞こえてくる。


「だすげ……」


 内臓が破裂したのか、口から血を――、泡を立てながら零しながらも必死に助けを請うてくる藤岡。


「俺達じゃ、間に合わなくて――」

「任せておけ!」


 ダンジョンの床を蹴りつけ一足飛びでモンスターに近づく。

 そして拳でモンスターを殴り吹き飛ばす。

 触手に掴まれていた藤岡は空中に投げ出され――、俺は跳躍し――空中で藤岡を抱きかかえ着地すると同時に周囲を取り囲んできた木霊の眷属からの攻撃を避けながら後退する。


「織田! 藤岡を――」

「は、はい!」

「さて――、瞬殺だ!」


 ただの普通のパンチ! 連射!

 腰を落とし正拳突きの連打!

 大砲のような風圧が――、衝撃波が連続して巻き起こり襲ってきた――、そして襲ってきようとした木霊の眷属を完膚なきまでに消し飛ばす。

 

「さらに!」


 俺は地面を蹴りつける!

 それだけでダンジョン内に激震が入り俺の踏みつけたダンジョン内の床を中心に崩落が始まる。


「うおおおお」

「な、なんだ!?」

「こ、これは――!?」


 次々と声が上がるが広範囲にダンジョンの床が陥没した事で後ろからの追撃を防ぐことが出来たと考える。


「織田! すぐに治療を始める。そこに藤岡を寝かせろ」

「――え?」

「早くしろ!」

「は、はい!」


 すでに藤岡のHPは30を切っている。

 時間は残されていない。

 俺は――、俺が助けると言った者はどんな理由があろうとも守る!

 視界内のカーソルから、魔法欄を選択。

 

 


 ▼少彦名神(スクナヒコナ)


 生者の傷を回復させる力を持つ。

 自らの存在力――、顕現力を消費することで発動が可能。




「……」

「ピーナッツマンさん、これを……」


 存在力とは? 顕現力とは? と、一瞬、思考の片隅で思い無言になったところで織田が恐る恐ると言った様子で、ポーションを差し出してくるが――、低品質のポーションでは、藤岡を助けることは出来ない。


「必要ない。そのポーションは、自分で使え」

「――で、でも……」

「気にするなと言っている。それに、俺が助けると言ったら、お前の仲間は俺が必ず助ける」

「……分かりました」

「――さて」


 迷っている時間はない。

 それにスキル「大賢者」が使えない以上、魔法に関しての制約も確認は出来ない。

 なら――、


「迷っている暇はないな」


 魔法欄から、少彦名神(スクナヒコナ)を選び発動。


「魔法『少彦名神(スクナヒコナ)』を発動」


 俺の声と共に、魔法陣が藤岡の体が横たわっている床を中心に魔法陣が転写される。

 そして――、生気を失い土色となった藤岡の表情に生気が戻るばかりか、食い千切られていた藤岡の右腕も一瞬にして修復されていく。


「こ、こんな魔法が……」

「すごい……」

「これがSランクの上を行くピーナッツマンさんの魔法……」


 念のために藤岡のHPを確認するが上限まで完全に回復している。

 それどころか、戦闘をしていた戦国無双ギルドのメンバーも全員が回復しているのが確認できる。


「ピーナッツマンさん、すいません」

「気にすることはない。それよりも、すぐにダンジョンを出ろ」


 俺の言葉に前方――、地上に続く階段を多くの冒険者と日本ダンジョン探索者協会の人間が上がったようで人影は斑となっていた。


「ピーナッツマンさんは?」

「俺は弟子を連れてすぐに上がる」

「分かりました。お前達! すぐに上がるぞ!」


 織田の命令に、戦国無双のギルドメンバーたちが地上へ続く階段を上がっていく。

 その姿を見送ったあと、俺は視線を表情を青くしたまま立ち尽くしている相沢の方へと向けた。





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