第286話 鳩羽村ダンジョン攻略(24)

 到着したのは33階。

 後ろからは、階段を必死に駆け下りてくる相沢の姿。


「――お、置いていかないでください」

 

 彼女が何か話しているが、俺はそれに耳を貸さずに迷宮の床を破壊する。

 それは周囲のダンジョン内に振動として広がっていき――、広範囲に渡り崩落を始めていく。

 そしてそれを呆然と見つめていた相沢は、足元が崩落すると共に俺と一緒に階下へ向けて落下を始めた。


「山岸さんっ!」


 不味いな。

 相沢と違い佐々木は戦闘経験が殆どない。

 たしかにレベルは佐々木の方がダンジョン内のモンスターよりもレベルは高いが――、それだけでは戦闘は決まるわけではない。

 少なくとも俺が今まで戦った軍に所属している連中は、俺よりもステータスは低くても俺と戦うことが出来た。

 つまり、戦闘経験値が物を言う場合もある。

 そして――それはダンジョン内という閉鎖された空間では色濃く反映されるはず。


「くそっ!」


 苛立ちが抑えられない。

 こんな事なら、外に情報を開示するんじゃなかった。

 完全に裏目に出てしまっている。

 俺は、すぐに見えてくる34階層に床を蹴りで破壊し――さらに下の階層へと移動していく。

 兎に角、時間がない。

 俺は、そのまま42階層までぶち抜く。

 そして41階層に到着したところでスキル「神眼」を発動。

 周囲のMAPを確認。

 

「向こうか」


 距離と方角を確認したところで壁を殴りつける。

 爆発的な衝撃波が――ダンジョン内の周囲の壁や床や天井を吹き飛ばすと同時に女性の悲鳴が耳元へと届く。

 ハッ! として振り向くと、そこには相沢が額から血を流して倒れていた。


「大丈夫か?」


 何を自分で言っているのかと唇を噛みしめる。

 どう考えても、相沢が怪我を負ったのは頭に血が上った俺が向こう見ずに動いただけなのは明らかだろうに。

 すぐに相沢を抱き上げ階段に向かって走りながら魔法「少彦名神(スクナヒコナ)」を発動。

 一瞬で、抱きかかえていた相沢の怪我が治癒されていく。




 ――パーティメンバー、相沢(あいざわ) 凛(りん)の治療が完了しました。




 念のために相沢のステータスを確認しておく。

 



 ステータス 


 名前 相沢(あいざわ) 凛(りん)

 職業 自営業 ※小料理屋店主

 年齢 23歳

 身長 155センチ

 体重 46キログラム 

 

 レベル2062


 HP20620/HP20620

 MP20620/MP20620


 体力357(+)

 敏捷363(+)

 腕力354(+)

 魔力379(+)

 幸運 6(+)

 魅力21(+) 


 所有ポイント763




 相沢のレベルが大幅に更新されている。

 ログを確認すると、『――木魅(こだま)の眷属LV366 を討伐しました』と、言うログが無数に――数千にも及ぶログが書き出さていた。


 ――まったく気が付かなかった。


「……う、山岸さん……」

「大丈夫か?」

「は、はい……。突然、急ぎ出してどうかしたんですか?」

「……」


 無言で返すと、ようやく俺が抱きかかえている事に気が付いたのか相沢が頬を赤らめるが、いまは抱き上げたまま迷宮内を――、破壊して出来た通路を一直線に走る。

 走っている途中で、レベル500を超える木魅の眷属が無数に襲ってくるが――、それらを全て指弾で撃破。

 その都度、相沢のレベルが上がっていく。

 さらに無数の宝箱が周囲に散らばる。


「やっぱり、山岸さんは普通じゃないんですね」

「そうだな」

「それだけの力があるのなら――、これだけの力を持つ冒険者が居るのなら……、どうして日本ダンジョン探索者協会は……ううん。どうして日本政府は危険なダンジョンに日本国民を潜らせるような事をするんでしょうか?」

「……それは強い人間だけでダンジョンに潜って何とかしろってことか?」

「あ……」


 そこで彼女は、自分が呟いた言葉の意味を理解したのか口を閉じる。

 まぁ、俺だってコールセンターで勤めていた時は、どうして危険な場所に態々行くのか? と、理解は出来なかった。

 どうせ自衛隊が何とかしてくれると高をくくっていた。

 だからこそ、相沢の気持ちは理解できる。


「……でも、こんなに危険な場所だったら、それを国民に周知しておけば、あの人だって行方不明には!」

「そうだな」


 親しい人を失ったというのは、何物にも代えがたい苦痛だろう。

 決して誰にも理解はされない程の辛さ。

 だからこそ、彼女が語る言葉は――、俺にだけは分かった。

 

「山岸さんも、もしかして――」

「口を閉じろ、舌を噛むぞ」

「――え?」


 俺は、42階層へと続く階段を降りる。

 そして――、42階層に到着した俺の目に入ってきたのは――。


 そこは、32階層と同じく、建物は倒壊・炎上し続けており、スキル「神眼」で確認した限り誰一人生存者の居ない死が支配する階層となり果てていた。

 

 



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