第九章 幕間
第262話 暗躍する者達
――佐々木家本家は、広大な敷地を有している。
そして敷地内には大小さまざまな池が幾つも点在し、朱色の木製の橋がかけられているばかりか、建物は武家屋敷を模して造られており誰もが一目で別格の上流階級の住まう家だと言う事が理解できるほど。
その橋の上には一人の老人が鯉の餌やりをしていた。
傍らには3人の黒服のボディガードが周囲を見回している。
ただ、敷地内と言う事もあり至る所に警備の人間が居る事からほぼ意味ないとも言えたが――。
「長老」
静かに橋の上で餌付けをしていた老人の元に、40歳の白髪の男が駆け寄ってくる。
「岩屋、騒々しいぞ」
「申し訳ありません。じつは――、鳩羽村ダンジョンで問題が起きたらしく――」
「ダンジョン内でか?」
「いえ――、ダンジョンの外です」
「ふむ。――で?」
「ピーナッツマンが現れたそうです」
「ピーナッツマン? 千葉の特産品でも販売しているのか?」
「いえ、そうではなく――、長老はピーナッツマンをご存知では?」
「知らん。それより、そのふざけた名前は何だ?」
「じつは、日本ダンジョン探索者協会で佐々木望を押しのけてNo1の座に居る国民的ヒーローです」
「ほう。ヒーロー、英雄か」
「はい。それで――、ここ最近、起きている鳩羽村ダンジョン内の失踪事件の真偽確認の為に来たらしく――」
「ふむ。だが、対策は万全を期しているのだろう?」
「もちろんです。鳩羽村ダンジョン内では、公式発表として誰一人死んではいないと言う事にしてあります。――ただ……」
「――ただ、何だ?」
「夫がダンジョンから戻ってこないと訴えてきた女が居まして――」
「そのような者、殺して処理すればいいだけの事だろう? 何をしているのだ?」
「それが――、佐々木望と交友関係があったもので……」
「まったく――、あの生贄と交友関係があったくらいで処分しないとは、岩屋! 貴様の職務に対する怠慢と言う事は分かっておろうな?」
「――も、申し訳ありません!」
岩屋が、顔を青くする。
すぐに土下座をして謝罪しようとしたところで、その頭部が空中を舞う。
――そして、地面に頭部が落ちると共に肉体がバラバラに切り裂かれた。
辺り一面には、血が散乱し――。
「まったく役立たず者が! 萬!」
「はい、ここに――」
「この役立たずのゴミを始末しておけ。それと、ピーナッツマンの事だがダンジョン内に入ることを許可しておけ」
「分かりました」
去っていく萬を見たあと長老――、佐々木雄三も家屋内に戻る。
後ろからはボディガードが付いてくる。
「ここまででよい」
建物の奥まった部屋に入った雄三は、昇降機内に入ると降下ボタンを押す。
昇降機は、数分という時間を掛けて一番の下位下層に到着したところで動きを止めドアが開く。
辺りは漆黒の暗闇であったが、暗視の魔法を持つ雄三には些かの不便もない。
まっすぐに続く回廊を歩き続けたところで、目の前が唐突に開く。
「ほう、ここまで直接来るとは珍しいこともあったものよのう」
「少し問題が起きましたので――」
「それは、どのようなことか?」
「じつは佐々木望のレベル8500を超えるかも知れない者が姿を現したのですが、その者が鳩羽村ダンジョン内で起きている失踪事件を調査するらしく――」
「なるほど、それで妾(わらわ)にどうしろと?」
「お守り様は、鳩羽村ダンジョンと一体化しておりますゆえ、レベルを見ることが出来るのではと――」
「なるほどなるほど――、ふむ……、丁度――、妾のダンジョンに入ってきた者が居るのう。レベルは1100と言ったところか」
「1100ですか」
「間違いない」
「それでは、何かしらの功績を上げて望よりもランキングが上がったと考える方が妥当か……」
顎に手を当てながら一人考える雄三。
「お守り様、その者を殺すことは可能ですか?」
「当たり前だ。妾を誰だと心得ておる。妾は、奈良時代に生まれし至高の存在! 神に最も近き半神であるぞ!」
「――も、申し訳ありません」
「まぁ、良い。今回は許そう。それよりも妾のダンジョンを調査に来るとは愚かな者よのう。相手の実力を見測ることも出来んとは――、まぁ……、レベルはそこそこ高いから、丁度いい供物になろう。――それで本当に消してしまってよいのだな?」
「はい」
「そうか。雄三よ、その者は傍らに一桁レベルの者を供に付けているようだ。何かあれば、庇って死んだという事にしておけばよかろう」
「分かりました」
「――さて……、相手の力量すら測れん愚かな者でも殺しにいくか。すぐに死なれては興覚めだからな」
「お守り様、あまり遊ばれませんように――」
「分かっておる」
雄三の言葉に答えるかのように広大なフロア――、部屋から通路に向けて無数の触手が凄まじい速さで移動していく。
その様子を見ていたお守りは、「――さて! どの程度か、まずは妾の平均レベル1000の子供らを使って試させてもらうとしようか」と、楽し気に――、壊れたように笑い、それは最下層のフロア内に響き続けた。
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