第240話 ピーナッツマン、メディアの前に出る!(3)
「山岸様」
「何でしょうか?」
佐々木をアイアンクローしたまま持ち上げてつつ、話しかけてきた相原さんへと視線を向ける。
多少、表情が引きつっているように見えるが、きっと気のせいだろう。
「今日から、しばらくは鳩羽村交通での手伝いになりますので」
「ああ、なるほど。相原さんには、ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」
「いえ、社長からの指示ですので」
佐々木を床に降ろし、頭を下げる。
「――では、私は朝食も一足先に頂きましたので鳩羽村交通へ行ってまいります」
洗濯が終わり乾かした服を持ってコインランドリーから出ていく相原さんを見送ったあと、「山岸さん。朝食の用意が出来ていますので、食事なんてどうですか?」と、言う香苗さんの言葉に俺は頷く。
丁度、お腹が空いてきたころ合いだ。
ここは馳走になるとしよう。
「望は、しっかりと洗濯をしておきなさいね」
「ええっ!? 私も、先輩と食事したい!」
「ダメよ。押してダメな時は引かないとダメ」
「…………う、うん」
渋々といった感じで佐々木が頷く。
後半部分は何を言っているのかよく分からないな。
大したことではないと決めて大人しく香苗さんの後を付いていく。
案内されたのはスタッフルーム横の部屋に併設されている部屋。
奥には、旅館の厨房が見えることから、社員専用の食堂か何かなのだろう。
席数は多くなく10人も座れればいいくらいだ。
出されたのは朝の定番とも言える焼き魚や生卵に納豆と海苔に味噌汁。
どれもプロの板前さんが作ってくれたこともあり旨い。
――まあ牛丼には負けるがな!
椅子に座って食事をしていると、ドアを開けて佐々木が部屋に入ってくる。
「やっと終わりました。お腹空きました」
食堂に入ってきた佐々木は、ブツブツと言いながら俺の隣の椅子を引いて座ってくる。
どうして食堂には10人近く座れる場所があるのに態々、狭い場所に座ってくるのか疑問だ。
「源さん、私も朝食です!」
「あいよ!」
威勢のいい声が、厨房の奥から聞こえてくる。
するとすぐに火を扱っているような音が聞こえてきた。
それと共に、佐々木がテーブルの上に置かれていたテレビのリモコンを手に取り電源を押す。
壁に掛けられたいたテレビは、すぐ電源が入り――。
――こちら国会前になります。
唐突に流れるニュース。
どうやら、ニュースは国会についての物のようだ。
いくつかの問題事がニュースで流れたあと――。
――それでは、先日テロリストにより壊滅的な損害を受けた伊東市についてのニュースです。
「先輩、これって……」
そこで、佐々木が見入るような目でニュースを見ている事に気が付く。
まぁ、起きてしまった事はもう仕方がない。
あとはどうするかだ。
――伊東市では、死者0人、重軽傷者0人という奇跡が起きましたが、家屋などの倒壊数は数千棟と言われており、自衛隊は伊東市からの要請により仮設住宅を立てています。ですが――、圧倒的に数が足りていないという事と、年始年末ということもあり冷え込む為、住民の健康管理が心配なところです。
「先輩……」
「お前が気にすることじゃない。それに――」
「それに?」
――次のニュースです。伊東市の復興は、時間が掛かることも予想されており住民の健康管理を含めて、日本国政府はすぐにでも各省庁担当責任者と大臣と連携をして対応していくとのことです。ただ、今回は広範囲に渡り伊東市は壊滅的被害を受けていることから時間が掛かることは予測されており――。
そこで、唐突に女性アナウンサーの言葉が止まると同時に「え?」と、言う表情が画面内に映し出される。
何度も、画面の外に居るであろう人に「これは本当ですか?」と、オンエア中だというのに確認をしているのが見えて――。
「先輩、なんか……、ニュースのアナウンサーの方、おかしいですよ?」
佐々木だけでなく香苗さんもテレビに釘付けで――、すぐに続報が流れる。
――えっと、速報です! 今回のテロリストにより居住区を失った方には、一時金が即支払われることになりました。本人の身分が証明できる身分証明書をお近くの日本ダンジョン探索者協会に持参の上、手続きを行ってください。日本人だけでなく外国の方にもお金が支払われることになって――、これって本当ですか?
書面を見ながら話しているアナウンサーが驚きの声を上げている。
「先輩、災害を含めて国からの一時金が即金で払われることって普通はありえないですよね……」
「そうだな」
――今回の一時金ですが、日本ダンジョン探索者協会に所属しているNo1探索者のピーナッツマンが私財を寄付したとのことです。
「――え? せ、先輩!?」
佐々木が、口を大きく開けたまま俺の方を見てくる。
「え? 望、どうして山岸さんの方を見ているの?」
「――いえ、佐々木は疲れているようなので」
「そうなの? それにしても、ピーナッツマンって人すごいわよね。寄付金が180億円だって、そんなに探索者って稼げるのかしら?」
感心した様子でテレビを見ている香苗さん。
そんな母親を放って佐々木は俺の腕を掴むと引っ張ってくる。
仕方なく食堂を出たところで、佐々木が顔を上げてきた。
「先輩! あのお金って! どうして! どうしてですか! あのお金は、大事なお金じゃないんですか! あれは、私達には関係無いはずなのに、どうして!」
「関係ないなんて言うなよ。それに大事なお金だからこそ使うんだろ? 今は年始で寒いからな。家を失った人が避難所で暮らしているのは辛いことだ。だから――」
俺は、伊東市内で起きた出来事を思い出す。
多くの人が傷つき苦しんでいた。
そして、それは――、助けることが出来なかった妹の姿を思った時の気持ちと重なる。
だから俺は……。
「金で解決できるなら安いものだ。一時金でホテルを借りて家族で暮らして、引っ越しが出来て生活基盤が整えられるならな」
「――で、でも! 何の見返りも無いのに……、そんなに大金を寄付して……」
理解が出来ないと言った様子で俺を見てきている佐々木の頭に手を置く。
「そんな悲しいことを言うなよ。それに――」
「それに?」
「誰かが苦しんでいるなら手を差し伸べるのが人間ってものだろう?」
とんだ偽善だ。
口にしながらも吐き気がする。
自分が、助けられなかった妹のこと――。
そして守れなかった大切な物を誰かを助けることで補填しようという浅ましさに。
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