第238話 ピーナッツマン、メディアの前に出る!(1)
「先輩の部屋は、ここになります」
「すまないな」
「いえ……」
部屋の扉を佐々木が開ける。
俺は靴を脱いだあと畳のある部屋――、8畳ほどの客間に上がり部屋の中を通り窓際まで歩いていく。
「見晴らしはいいな」
一望に、鳩羽村商店街を含む街並みを望むことが出来る。
それと共に通された客間は、少し先が切り立った崖になっている事に気が付く。
「はい。いまは宿泊客も一人もいませんし、それに先輩が頑張ってくれているので……」
「なるほど……、それで香苗さんが用意してくれたという訳か」
俺の言葉に黙ったまま頷く佐々木は、ドアを閉めると鍵を閉める。
「ところで、その荷物は何だ?」
「私の荷物です」
「どうして、俺の部屋に佐々木が一緒に?」
「これからの事も考えて、色々と先輩にアドバイスできるようにと、お母さんが」
「そういうのはいいから」
とりあえず、俺は畳の上に置かれた佐々木の荷物を手に取ると佐々木に渡したあと、部屋の外へと押し出す。
その際に、「先輩っ! ひどいです!」と言ってくるが、そういう男女の関係は求めていないのでスルーして扉を閉めて鍵を掛ける。
「まったく……」
思わず溜息が出る。
鳩羽村に来てからというもの佐々木のアタックが日に日に酷くなっている気がしてならない。
だが――、佐々木家の本家と戦っている事もあり佐々木に「お前には、まったく興味はないからな!」と、言うのは色々と問題が発生しそうで言えそうもない。
そんな事をすれば協力してもらっている現状を壊しかねないし。
「まったく厄介だな」
佐々木は、俺の事が助けてもらったから好きだと言っていたが、俺は別に助けた理由は助けたいから助けたに過ぎない。
そこに他意は無い。
「はぁ……」
――色々と面倒だ。
畳の上で寝転がり目を閉じたところでスマートフォンの着信音が鳴る。
電話番号を確認すると、そこには江原の電話番号が表示されており――、
「江原か?」
「山岸さんの携帯電話でいいですか?」
「ああ、それでどうした?」
電話越しに、俺かどうか確認してくる江原に言葉を返す。
「じつは、日本国政府から交渉に関しての連絡があって――、私が山岸さんの代理と言う形で対応する話になっているみたいなんですけど……、私はM&Aとか千城台交通とのセッションだけだと思っていたので……」
「ああ、すまないな。連絡するのを忘れていた」
「それだと日本国政府との交渉も私がする形ですか?」
「そうなる」
「えっと、夏目総理の秘書の方から受け取った資料を読んでいるんですけど……、これって本気ですか? 莫大な予算が必要になりますけど……」
「仕方ないだろ。俺達も無関係という訳じゃないんだから。それに、日本国政府がすぐに対応するのは難しいと聞いている。だから――」
「でも! だからって――」
「江原。それは俺が決めたことだ。そして、俺はお前に仕事のサポートを以前に頼んだ。だから――、お前に任せた。それだけだ」
「…………分かりました。でも、これだけの予算をどうやって上げておけば? 絶対にニュースになりますよ? 誰の名前で行うんですか?」
「そうだな……」
江原の言う事は真っ当なこと。
「ピーナッツマンが寄付したってことで、官邸とセッションをしておいてくれ」
「……分かりました。――でも、ピーナッツマンって……、山岸さんの名前でなくていいんですか?」
「必要ない。それに、これは善行ではなく後始末に近いからな」
「分かりました。あと――、いまって山岸さんは望ちゃんと一緒にいるんですよね? 藤堂さんから聞きましたけど……」
「ま、まあな……」
「うらやましい……」
「――ん?」
「私だって! 山岸さんのことが好きなのに! どうして望ちゃんと旅行に行っちゃうんですか!」
「――い、いや……、旅行ではなくてだな……」
「旅行じゃなかったら何なんですか?」
「それは……」
「それは?」
「気分転換だ!」
「絶対に嘘ですよね!」
断定してくる江原。
まったく、人を疑うような真似は良くないと思うぞ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます