第229話 交渉と面接(11)

 静まり返る事務所内。

 息苦しい程の沈黙の中――、口を開いたのは……。


「――山岸さん。貴方は、大事な者を守るために……、どれだけの損失が――、自身の身にどれだけの危険が降りかかるか想像できるというのに、それでも――」

「無論だ! 俺に撤退の2文字はない! あいつらは俺の大切にしている物をあざ笑うばかりか奪ってきた! これは、すでに戦争だ!」


 すでに相手は、町おこしの為というお題目の為に俺の大事な牛丼を低俗な食べ物と切り捨ててきた連中。

 その所業! 神が許したとしても、全世界60億の牛丼ファンが許したりはしない!


「戦争か……」


 深く溜息を光方は、俺の隣に座っている佐々木をしきりに見るが、どうして佐々木が関係しているのかよくわからん。

 もしかしたら佐々木の為に俺が動いていると勘違いしているのかも知れないが……。


 それは大きな間違いだ!


「途中で撤退を選ぶことは……」

「それはない」

「せんぱい……、それは……。私は、嬉しいですけど……、でも……」

「佐々木、何度も言わせるなよ? こいつは俺の戦いだ」

「望(のぞみ)ちゃん、彼はすでに覚悟を決めた男の目をしている。――なら、支えてあげるというのが女というものだろう?」

「――でも……、先輩は関係ないのに……」

「彼は、自分の喧嘩だと言っているのだ。――なら、彼を好いているのなら分かるね?」

「…………」


 無言のまま俯いてしまう佐々木。

 どうやら二人とも大いに勘違いしているのが、その話から察することができたが――、まぁここは下手に余計なことを言わずに適当に誤魔化して協力を仰いだ方がいいな。


「それで、どうでしょうか?」


 決断を促すことにする。

 ここで時間を置けば、横やりが入る可能性だって考えられる。

 そうなれば、シャトルバスの運行という方法に切り替わるだけだが――、それだと色々と維持に余計に金が掛かる。

 しばらく無言のまま考え込んでいた光方が、「……その融資の話、受けよう」と答えを返してきた。




 ――1時間後。


 鳩羽村交通、事務所。


「だいたい、こんなところが業務内容になる。どうだ?」

「なるほど……」


 何故か知らないが、鳩羽村交通の事業詳細まで説明を受けた俺。

 

 ちなみに、鳩羽村交通の事務所には俺と光方しかいない。

 理由は、佐々木家本家に楯突いた鳩羽村交通の監視。

 それが定期的に来るらしく佐々木母娘が直接的に関わっていると本家の方から余計な事をされるかもしれないという光方の助言からだ。


 ――ただ、二人とも帰ることを渋っていたが、結果的に迷惑をかけた光方の顔を立てるという形で旅館まで相原が送っていった。


「つまり収支的には、つねに赤字経営という事ですか」


 とりあえず業務関係の話なので丁寧語に変更する。

 その方が思考する際に楽でもあるからだが――。


「まぁそうなる」

「やはり、一般住民は車を持っていて、さらには誘致した探索者協会と探索者も殆どが車を利用しているというのが大きいのは――」

「元々、過疎地でもあったから若者も少ないからな。利用するのは主に免許を持っていない限られた人間だけになる」

「なるほど……」


 やはり予想通りだったという訳か……。


「これだと、長期的な視野から見ると遠からず鳩羽村交通は――」

「倒産という形になる」

「ふむ……」

「どうだろうか?」

「そうですね。とりあえず、旅館の方に関しては今後、安定した顧客を見込めると思うので、それなりの集客が見込めると思います」

「安定した集客?」

「はい。光方さんはダンジョンというのをご存じで?」

「鳩羽村に存在しているのは知っているが詳しくは――」



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