第209話 信頼の軌跡(11)
「すいません。ちょっといいですか?」
「何でしょうか?」
言葉は丁寧だが――、抑揚がすでに苛立ちが含まれているのが良くわかる。
佐々木に色々と言われたことで頭に来ているのかもしれないな。
「車をレンタルして来たいのですがいいでしょうか?」
「先輩?」
佐々木が、どうしてアイテムボックスがあるのに? と、不思議な表情をしてくる。
たしかに俺も最初は、普通にアイテムボックスの性能を持つアイテムを佐々木に使わせようと考えていた。
だが――、佐々木からアイテムボックスの希少性と価格を聞いてから人前で使うのはマズイと考えている。
しかも、目の前に居るのは日本ダンジョン探索者協会の支部長。
そんな人間の前で、アイテムボックスの機能を持つ四次元ポーチなどを使えば日本全国の支部に佐々木の情報が駆け巡るのは確実。
下手をすると出所すら調べられかねない。
そして――、その情報が夏目総理などに入れば――、いや――、確実に入る。
入れば、また余計な詮索や厄介事になるのは目に見えて明らかだ。
よって! 俺はレンタカーを借りて20億のお金を旅館まで持っていくことに決めた。
「佐々木、余計なことはするなよ? 車を借りてくるから、大人しくしていろよ」
「はい……」
「それでは失礼します」
俺は、すぐに日本ダンジョン探索者協会の松阪支部から出る。
「たしか、さっき――、松阪駅の北口から出た時にロータリー左手に大手レンタカー店があったよな」
とりあえず、俺は松阪駅前に向かって力をセーブしつつ走る。
思ったとおり松阪駅前が見えてきたところで大手レンタカー店の看板が見えてきた。
すぐにレンタカー屋に入り白のワンボックスカーを借りる。
「乗用車しか運転した事がないから、車体幅の感覚が難しいな」
悪戦苦闘しながらも――。
日本ダンジョン探索者協会 松阪支部は、松阪駅前北口から大通をまっすぐに進むだけで到着することが出来るので楽ではあった。
支部の前に車を停めたあと、支部長室へと向かい挨拶もそこそこに20個ものジュラルミンケースを車に積み込みエンジンを掛けて車のアクセルを踏む。
「佐々木、余計なことは言わなかっただろうな?」
「何も言っていません。そもそも、私はああいう人は嫌いですから」
「そうか……」
それにしても、佐々木にも好き嫌いというのがあるんだな。
客商売である旅館の後継ぎと言う事だったから、苦手な人はいる程度だと思っていたが――、そうではないようだ。
「それにしても、山岸先輩は大きな車も運転できるんですね」
「大きくない。ワンボックスカーだ。これしかジュラルミンケースに入っているお金の運搬は出来ないと思ったからな」
あとは2トンとか4トンのトラックなどもあったが、それは屋根がないから断っておいた。
「とりあえず、鳩羽村に戻るとするか。そうそう、佐々木」
「はい?」
「念のためにアイテムボックスの中にジュラルミンケースごとお金を入れておいてもらえるか?」
「――? わ、わかりました」
一瞬、疑問が浮かんだ表情を佐々木は見せたが、すぐに頷くとアイテムボックスの機能を持つポーチなどにジュラルミンケースを入れていく。
「これって、すごく便利ですね」
「そうだな」
実際のところ、俺は一度も使ってはいない。
魔法にアイテムボックスがあるから使いようがないのだ。
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