第184話 蠢く陰謀(13)

 警察庁長官である山吹(やまぶき) 武彦(たけひこ)と別れたあと、俺は足を止めた。


「はぁ……」


 思わずため息が出る。

 周りに何もない。

 民家や幼稚園なのはあるが店などがまったく見当たらないのだ。

 しかもマンションが殆どないので、屋根伝いに身体能力任せで走って帰ることすら出来ない。


「仕方ない。とりあえず、幹線道路まで行くとするか……」


 時刻は深夜の2時。

 幹線道路まで出ることはできたが殆ど車が走っていないし店も営業していない。

 仕方なく、交差点の紳士服を売っている店の隣にあるコンビニに入る。


「いらっしゃいませー」


 名札に店長と書かれている初老の男が挨拶をしてくる。

 ちなみに店には、客は俺しか見当たらない。

 さすが松阪市と言ったところだろう。


 とありあえず弁当コーナーにいき牛丼を物色する。


「た、たけぇ……」


 思わず震える。

置かれている弁当の……、牛丼の価格が1980円と! とんでもない強気価格。

そんな弁当が10個ほど置かれている。


「すいません」

「はい。何でしょう?」

「たしか牛丼って398円くらいだった記憶があるんですが……」

「ああ……」


 コンビニの店長が溜息交じりに。


「実はですね。松阪市では松阪牛をブランド化するという松阪条例が制定されてから、市内では松阪牛以外を取り扱った営業が出来なくなったんですよ。それは、うちみたいな全国チェーン展開している店も例外ではなくてですね……」

「どういうことですか?」

「今、説明した通り松阪市が誇るブランド牛、松阪牛以外の肉は使ったらいけない事になったんです。松阪牛以外の牛を使ったハンバーガーやすき焼き、焼肉、寿司、ラーメン、カレーなど、全ての牛を使ったレシピは松阪市では取り扱う事を禁じたんですよ。だから――」


 店長が棚からハンバーガーを取り出して俺に見せてくる。


「これを見てください。以前は、外国産の牛の肉を使っていたので198円で販売出来ていたのが1400円になったんです」

「高いですね……」

「はい。こんなに急激な物価上昇、正直なところ一般市民は着いてこられないですよ。だから、最近は鳩羽村や周辺の市町村に引っ越す人が多くてですね……」

「なるほど……。だから人通りが殆どなかったんですか」

「そうですね。前は、ここまで酷くは無かったんですが……。一体、誰の為の条例なんでしょうね。このままだと東京都や神奈川みたいになってしまいますよ」


 憂鬱な表情で語ってくる店長。

 たしかに店長の危惧は分かる。

 今から6年前に東京都は、ヘイトスピーチ条例が出来た。

それからというもの、ヘイトスピーチ条例を悪用した在日外国人などが日本人を弾圧する風潮が出来上がっていく。

世はまさに世紀末であった。

一時期は、メキシコと同程度まで犯罪率が上がり東京都は修羅の国の名前をほしいままにしていたが……。


それに対抗する措置を出来たばかりの日本国政府の首相である夏目一成はとった。


 内容としては都議会と都知事を、警察と自衛隊を使って強襲。

ヘイトスピーチ条例を通した都知事と都議会の人間を日本国政府は外患罪で捕まえて投獄した。

ただ、不思議と全員が裁判中に収監所で病死したとネットの記事では書かれていた。


 ちなみに……、それ以降、ヘイトスピーチ条例は廃止になり日本人の言論の自由が確保された事で治安は劇的に改善された。

そういう事もあって夏目一成は日本国首相としては、異例なほど東京都民から絶大な支持率を誇っている。


「そうですか……」

「ええ、まぁ――、いまは日本国の首相は出来た方ですから松阪市も何とかしてくれると期待していますけどね……」


 苦笑い見せてくる。


「それじゃ、この棚にある物を全部買います」

「――え?」


 日付をチェックしたが、あと数時間で廃棄になるものばかりだ。

 しかも、此処のコンビニは値引きを本部が許さないという殿様商売気質。

 

「全部ですか? 相当な金額になりますよ……」

「気にしないでください。せっかく松阪市まで来て地元の商品があるんですから、土産として買っていくのもありでしょう?」

「こちらとしては助かりますが……」

 

 


――30分後。

大量の袋に両手に持ったまま店から出る。


「ありがとうございました」

「いえ、気になさらず」


 まぁ、アイテムボックスに入れてある限り時間は動かないからな。

 店が見えなくなったところで、アイテムボックスを起動。

中身を袋ごとアイテムボックスに仕舞う。




 アイテムボックス


 流水の革袋 22

 バッカスの皮袋 4

 百合の花の魔力ブローチ 7

 四次元な赤薔薇のポーチ 3

 銀花の指輪 14

 万能中央演算処理装置 2

 四次元手提げ袋 16

 逆針(ぎゃくしん)の腕時計 5

 黄金の果汁 3

 極光の眼鏡 2

 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(頭)  2

 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(右腕) 2

 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(左腕) 2

 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(右足) 2

 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(左足) 2

 ヌカリスエット 201

 ポンジュース 166

 美味しい松阪市の水 2リットル 48

 美味しい松阪市のミネラルウォーター 117

 松阪牛の牛丼 10

 松阪牛のチンジャオロース 10

 松阪牛のすき焼き 10

 松阪牛のハンバーグ 10

 松阪牛の焼肉度弁当 10

 松阪牛のろっこもっこ丼 10

 松阪牛のハンバーガー 10

 松阪牛のチーズバーガー 10




「色々な種類が出ているよな。しかも値段が高いからな、1個も売れないと店長は嘆いていたが……」


 俺は受け取ったレシートをチェックする。

 飲み物を含めると全部で19万7700円の支払い。

 明らかにコンビニで出す金額ではないな。


「まぁ、一応はコンビニの弁当であっても牛丼を手に入れたから良しとしておくか」



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