第176話 蠢く陰謀(5)

「こちらがお部屋になります」

「どうも……」


 部屋は隣同士と言う事で、右手側の部屋が俺と相原の部屋。

 左手の部屋が佐々木が泊まる部屋となった。


 相原と共に部屋に入ったところで、「山岸様」と、神妙な表情で相原が話しかけてきた。


「どうかしましたか?」

「山岸様は、佐々木さんと一緒の部屋では泊まらないのですか?」

「とくに一緒に泊まるというか……、男女が一緒の部屋で泊まるのは夫婦や恋人関係じゃない限り不味いと思うんですが……」


 俺は、座布団に座りながら相原の問いかけに言葉を返す。

 

「いえ、そうではなくて……、彼女としては山岸様と一緒に同じ部屋に泊まることを考えていたのではないのかと――」

「まぁ、たしかに……。そう言われると……」


 以前に、佐々木は俺に好意を持っているような事を言っていたからな。

 ただ、アイツは問題ばかり起こしているからな……、正直なところ佐々木が居ると必ず何かしらの問題が起きている。


 西貝当夜の息子が俺が住むアパートに来た時も――。

 貝塚ダンジョンで、レムリア帝国の軍人がテロ行為を行った時も――。

 海ほたるで、レムリア帝国の軍人と戦いアメリカ合衆国が仕掛けた中性子爆弾が爆発した時も――。

 伊豆半島が神の杖で攻撃された時も――。

 

 必ずと言っていいほど何かしらの事件に俺を巻き込んできているからな。

 正直、佐々木と行動するに躊躇う要因は腐るほどある。


「――なら、ここは佐々木さんと話し合ってみたら如何ですか? それに、やはり雇用主と一緒と言うのは……」

「そうですか」


 相原が雇用主と一緒に泊まるのは――、と言う言葉に俺も同意せざるをえない。

 俺だって旅行に来てまでクライアントと同じ部屋で寝泊まりしてくださいと言われたら辟易するだろう。


「わかりました。それでは、相原さんは――、お一人で利用してください。俺は、隣の部屋にでも行きますので」

「はい。頑張ってください!」


 励まされても何も起きないんだが……。

 仕方なく部屋から出たあと、隣の部屋の扉を何度かノックする。


「はい」

「佐々木か? ちょっといいか?」


 すぐに部屋のドアが開くと、佐々木が出てくる。

 佐々木は数日間、実家に帰ると言う事で彼女だけは着替えの荷物を持ってきている事もあり佐々木は、モコモコしている暖かそうな黒のワンピースを着ていた。

 

 部屋の中に通されたところで、部屋の中を見渡すと、部屋の隅には着替えが入った大きなバックが一つだけ置かれているのが見える。


「あの、先輩……。どうかしたのですか?」

「――いや、じつは相原さんが雇用主と同じ部屋で泊まるのはと言って、な」

「そういうことですか。それで、先輩はこちらの部屋に一緒に泊まると言う事なのですね?」

「まぁ、そうなる」

「嫌なら仕方ないが――」

「いいです! すごくいいです! 大歓迎です!」

「――そ、そうか……」


 ――コンコン。


 部屋の扉がノックされたので、言葉を返すと一人の着物を着こなした20歳後半の女性が姿を見せた。


「こちらに山岸様がいらっしゃると言う事でしたので伺わせて頂きました。私、当――、割烹旅館『夢庵』の女将をしております、夏樹雫と申します。実は、インターネット上からご予約頂いた際に夕食の選択がされておりませんでしたで確認の為に挨拶を兼ねてお伺いさせて頂きました」

「ああ、なるほど……」

 

 そういえば予約をメインに考えていて食事の事までは考えていなかったな。

 まぁ、俺としては夕食に関しては、松坂市内にある松坂牛を使った牛丼を食べられれば別に夕食を用意してくれなくても問題ないわけだが……。


「『夢庵』で夕食ですか!? 先輩! ぜひ食べていきましょう! ここの割烹旅館の料理は松坂市では有名な程、美味しいんです!」

「そうか」


 そこまで言われたら、俺としても興味が湧いてくる。

 牛丼に関しては、前菜である夕食を食べたあとに町に繰り出して食べにいけばいいだろう。


「それでは、夕食の用意を――、となりの相原さんの分も含めてお願いします」

「かしこまりました」 

 

 彼女は、頭を下げると部屋から出ていく。


「先輩、すごく楽しみですね!」

「まぁ、そうだな……」

  




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