第151話 夕日の空の呟き 第三者視点
――新年、年明けの夕焼けの空
山村の上空を何機ものヘリが飛び回っていた。
ヘリは陸上自衛隊が保有するヘリであり、上空をヘリが飛び回っていた上落ち村では多くの人影が見て取れた。
そして、その多くが軍服を着ており、一目で軍人である事が分かる。
そんな中――、一機のヘリが着陸すると2名のスーツを着た男達が降りてきた。
「お待ちしておりました、総理」
「ご苦労――」
ヘリから降りてきたのは日本国総理大臣である夏目(なつめ) 一元(かずもと)。
そして付き添いで降りてきたのは日本国防衛大臣である小野平であった。
「現地の様子はどうだったのかね?」
まず口火を切ったのは小野平であった。
答えたのは、夏目に話かけた熊本一等陸佐。
「はい。伊東市の被害ですが町は、ほぼ壊滅――、ライフラインは電気は利用できない状況にあります。埋設されていたケーブルや配管は無事でしたので、プロパンガスを抜かした都市ガス、水道などのライフラインの復旧は、一週間ほどあれば復旧できるかと思われます。ただ――、電気につきましては……、時間が掛かるかと」
「なるほど……、――で、死者の数は?」
「それが……」
小野平の問いかけに戸惑いの色を見せる熊本。
そんな彼に怪訝な表情を向ける小野平であったが――。
「ハッキリと言いたまえ。正確な被害状況が分からなければ、今後の対策も遅れるだろう?」
「いえ……、被害というか――、伊東市では死者どころか怪我人すら確認出来ていません……」
「町が一つ壊滅して、怪我人が一人もいないだと!? どういうことだ!」
伊東市の人口は5万人弱。
市街地が壊滅的な状況であるならば、数千、場合によっては数万人の死傷者が出ていておかしくない状況であるのに、死者どころか怪我人が居ないという報告に小野平は、声を荒げた。
「小野平」
「総理……」
夏目が、小野平の肩を掴むと後ろに下がらせた。
「熊本一等陸佐、怪我人が出ていないという事は――、それは本当の事なのか?」
「はい」
「ふむ……。それでは、質問を変えよう。私達が、官邸から此処に来るまでの間に何が起きたのかを君は調べているかね?」
「それでしたら――」
熊本一等陸佐は、タブレットを取り出し夏目に渡す。
受け取った夏目は、タブレットを操作し流れる動画を見て眉を潜めた。
「これは……」
「原因は不明ですが、空から舞い降りる桜の花びらが発生したと同時期に、怪我を負った人間だけではなく死傷していた人々、さらに癌などの末期症状を抱えていた人々も全員が完治したと報告が上がっております」
「……そんな……、馬鹿な……、総理! こんなことが現実的にあり得るわけが!」
「小野平君、否定したい気持ちは分かるが――、現実問題として起きていることなのだ。それにSNSでも、【奇跡の回復】や【神の奇跡】と言ったタグで投稿が多くあるだろう?」
「――ですが!」
「総理、それと……、次の動画をご覧ください」
「ふむ……、これは――、ピーナッツの着ぐるみか?」
「はい。どうやら着ぐるみを着ている人物が、今回の奇跡を起こしたと――」
「ふむ……」
頷きながら夏目は、タブレットに表示されていく動画が画像をチェックしていく。
そしてある動画で手が止まる。
「これは……、緑色の極光?」
夏目が目を止めたのは、ピーナッツの着ぐるみを着た人物が1メートルを超える直刀を振り回す様子であった。
そこには、直刀を振るったと同時に緑色の極光が天空に向けて放たれている様子がハッキリと映っている。
「なるほど……な――」
「総理?」
「小野平、貝塚ダンジョンで発生した緑色の極光の光の事は覚えているか?」
「はい。覚えていますが……」
「おそらく、今回の伊東市の市民を助けたこと――、そしてアメリカの軍事衛星を破壊したこと、すべてに――、このピーナッツの着ぐるみを着た人物が絡んでいると見て間違いない」
「――と、なりますと……、この中の人物が……」
「うむ。一応は、日本ダンジョン探索者協会に所属しているという事になっていると聞いているが……」
「それは、【海ほたる】で、助けられた市民からの証言ですね」
「――だが、問題は……、その中身を【誰一人】も知らないということだ」
「……ですが――」
「分かっている。日本ダンジョン探索者協会に所属していた江原という人物と接点があるという事は判明しているからな。すぐに、江原という人間を調べた方がいいだろう。熊本一等陸佐」
「はっ!」
「君達の部隊は、上落ち村と神居村の調査を行ってくれたまえ」
「分かりました」
それだけ告げると、夏目と小野平を載せたヘリは離陸する。
――そして伊東市の上空へと。
「総理……」
「分かっている。伊東市だけでなく伊豆諸島全域の復興には莫大な予算が掛かる。すぐに伊豆諸島全域についての対策をしなければならないな。――それにしても……、ピーナッツマンか……、【海ほたる】から姿を見せるようになったが――、何が目的かが分からないのは困りものだな」
「――ですが、人を助けているというのは……」
「それは結果論だ。何の見返りも無しに人を助ける者など居る訳がない。もし居たとしたら、それは、とても危険な存在であり偽善者に過ぎない」
夏目の呟きは、ヘリの騒音に掻き消されるが――、同行していた者達の耳には確かに届いていた。
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