第134話 はふりの器(33)

 そのまま、女性は数歩下がると階段から足を踏み外す。


 ――そして階段から落ちかけたところで、無意識の内に俺は手を伸ばし彼女の腕を掴むと抱き寄せる。

 それと同時に、女性が着ていたコートから何かが落ちる。


「少し待っていてください」


 女性――、藤堂さんに話かけ答えが返ってくる前に、転がり落ちていった物を拾うために5段ほど階段を降りる。

 そして落ちた物を拾う。


「これは……、――なんだ?」


 手に持ったのは、一瞬だけ携帯電話のように見えた。

 ただ――、携帯電話の割には画面が全部ガラスのような物で作られているだけで画面は暗いまま。

 何も映ってはいない。

 それに携帯電話とは違ってアンテナも内蔵されていないし、ボタンも存在してない。

 まるで見たことがない。

 最新式のゲームでもないように思える。


「藤堂さん。これを落としましたよ」


 彼女に差し出すと、藤堂さんは震える手で俺が差し出した物を受け取る。


「ありがとうございます」


 お礼は言ってきた。

 だが、心ここにあらずと言ったように感じられる。


「少し境内で休みましょう」


 彼女の腕を掴み残りの階段を上がる。

 神社の鳥居を抜けたあと、胡床(こしょう)を母屋から持ってきて彼女を座らせる。

 

「すいません……」

「――いえ。何か気に障るような事がありましたか?」


 殆ど気にしていなかったが、何かおかしな事でも言っただろうか? と、自問自答する。


 ――思い当たる節は一つだけ。


彼女は、俺が太陽光発電推進派と言ったあとから彼女の様子がおかしくなった。


「あの……」


 藤堂さんは、迷った素振りを見せながら先ほど俺が拾った物に指先を這わせると、物を見せようとしたところで、一瞬、彼女の腕に緑色の蔓が絡みついたのが見えた。


「あれ? いまのは?」


 見間違いかと思い何度か瞬きをするが、その時には彼女の腕に絡んでいたように見えた蔓は消えていた。


「どうかしましたか?」

「いま、藤堂さんの腕に緑色の木の蔓が見えたような気がしたのですが……」


 気のせいだろうか?

 彼女は、首を傾げるだけで何も答えてこない。


「もう大丈夫です。それでは神社の中を見せてもらってもいいでしょうか?」

「……わ、わかりました」


 拝殿の方を案内することにする。

 

「こちらが拝殿になります。主に祭典などを行い参拝者が拝礼を行う場になります」

「こちらの絵は?」


 藤堂さんが頭上の絵を指差す。


「そちらは神堕神社が出来るまでの経緯を示した絵巻になります」

「絵巻……」

「はい」

「山岸さんは、この絵巻が意味することを知っているのですか?」

「ええ――、まあ……」


 親父に小さい頃から聞かされてきたのだ。

 神堕神社の成り立ちくらいなら多少は知っている。



 

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