第104話 はふりの器(3)第三者視点

 ――日本国首相官邸


 3階の南会議室では日本国の総理大臣である夏目 一元をはじめとして――。


 法務大臣 宮下 隆

 財務大臣 山村 一矢

 外務大臣 川野 拓郎


 などが集まっていた。

 その表情は緊張感に包まれていた。


「総理、突然の招集の訳ですが――」

「まずはコレを見てくれ」


 夏目総理の言葉と共に室内のスクリーンに【海ほたる】の様子が映し出される。


「海ほたるで起きたテロリスト件だと伺っていましたが……」


 財務大臣である山村が言葉を紡ぐが、それに待ったをかけたのは外務大臣の川野であった。


「海ほたるでは、放射線強化型核爆弾が使用されました」

「――なっ!? 日本国内で核爆弾ですと!? それで被害のほどは!?」

「被害は極めて微量でした。ただ――、海ほたるは甚大な影響を受け、現在はアクアラインは水没し復旧の見込みは数か月後と予測されている」

「そ、そうか……」


 椅子に座っていた山村はホッと胸を撫でおろしていた。

 彼としては、アクアラインの利用は少ないことから経済的な損失は少ないと考えたからだ。

 問題は、復興費用の捻出だけ。

 それもテロリストが起こした事件ならば幾らでも予算をつける大義名分は経つ。


「山村大臣、一息ついているところアレだが、放射線強化型核爆弾の出どころは米軍だ」

「――アメリカが!?」


 寝耳に水であった。

 同盟国であるアメリカが、核爆弾を何故、日本に持ってきたのか? 

 日本は非核三原則があるというのにだ。


 そこで夏目は、3人を見たあと口を開く。


「海ほたるのライブカメラと監視カメラが確認出来た限り、放射線強化型核爆弾3つ海ほたるに運び込まれたのが分かっている」


 夏目の言葉に外務大臣である川野以外は深い溜息をつく。

 日本国内で核爆弾が使用されたのは、第2次世界大戦の終戦直後以来。

 国民に知られれば大問題になる。

 それこそ、与党という立場から陥落だけではすまず政治生命も吹き飛ぶほどの大問題。


「それで、全てが爆発したということですか?」と、山村。

「――いや、爆発したのは1個だけだ。それも、爆発後に限りなく威力を抑えられている」

「総理、それで――、人的被害はなかったということですか?」

「そうなる」


 山村の言葉に応じながらも、夏目総理はスクリーンにリモコンを向けボタンを押す。


「次にだ。クーシャン・ベルニカに関してだが、アメリカ軍は海兵隊を投入し足止めをしている間に放射線強化型核爆弾で殺そうと試みていたようだ」

「それで、失敗し着ぐるみを着た佐々木望が倒したと?」

「うむ。一応、そういう事にする予定だ。アメリカ軍が介入したという事実は伏せてな」

「それでは! テロリストであるクーシャン・ベルニカが放射線強化型核爆弾を使ったということに?」

「いや、放射線強化型核爆弾についても伏せる。そのような物が爆発したと知られれば出どころを探られる可能性がある」

「そうですか……」


 夏目と話していた山村は、しぶしぶと言った様子で頷くと口を開く。


「ところで、小野平防衛大臣と時貞官房長官のお姿が見えませんが?」

「小野平は、佐々木望とコンタクトを取ってもらっている。彼女は、レベルの上限限界突破した8800だからな」


 その言葉に誰もが口を閉ざす。

 

 ――レベル8800。


 それは日本だけでなく国連に加盟している国々で管理している全ての冒険者、軍人の中でも抜きんでたレベル。

 佐々木望の次にレベルが高いのは各国の首相クラスや王族に官僚や治安組織の長。

 それでも、レベルは5000を絶対に超えることはない。

 それは成長限界レベルというのが決まっているというのが定説であった。

 そして、それはある日打ち破られる。

 ダンジョンを世界で唯一攻略した佐々木望が、レベル5000という成長限界を突破したからだ。


「それは、アメリカ軍が関与していたという事実を隠すためでしょうか?」


 山村の言葉に夏目は頷く。


「それもある。あとは、クーシャン・ベルニカと戦った着ぐるみを着たピーナッツマンが本当に彼女だったのか? という確認だ」

「それで――、どうだったのですか?」

「小野平からの報告では、山岸直人という男が、クーシャン・ベルニカと戦っていたと佐々木望は証言していたそうだ」

「山岸直人ですか? 聞いたことがありませんね」

「公安に命令し調べさせているが――、これを見てくれ」

「これは民間人ですか?」

「そうなる。佐々木望の行動範囲から調べた限りだが――、おそらくだが、この人物がもっとも近いだろう。名前は、山岸直人。千城台の杵柄アパートの204号室を契約した人物で享年21歳で上落ち村で起きた地滑りにて他界している」

「それは、伊豆半島で開発されていた大規模ソーラー発電施設の?」

「そうだ。特亜ソーラー開発株式会社とクリエイティブバンクが建設を受注した件だ。現在の立憲党が与党だった時代に、通した法案で作られた物で、土壌が適していなかった事、そして大量の森林を伐採し環境破壊を行った結果、ソーラー設備の重みに土壌が耐えきれず崩壊。村の住民を一人残して300人を生き埋めにした事件だ」

「そういえば、ニュースや新聞で取り上げられていましたが、すぐに収束しましたね」

 

 宮下の言葉に川野は頷きながら口を開く。


「当時、与党だった立憲党は各マスメディアに忖度をするようにFAXを送り、指示に従わない報道関係には工作活動をしていたようです」

「そういうことだ。もっとも当時、工作活動していた人間はだれ一人、生き残っていない」


 夏目の言葉に川野と宮下は首を傾げる。


「簡単な話だ。すでに工作に関わっていた連中は、全員が殺されている。工事を受け持った人物もクリエイティブバンクの社長以外は全員が殺されている」

「総理、クリエイティブバンク社長についてですが、先ほど死亡が確認されたようです」

「死因は?」

「はい。首を鋭利な刃物で刎ねられていたと――」

「そうか……、これで関係者と関わりのあった人間218人が殺されたということか」

「そんなにですか?」

「ああ、立憲党の政治家を抜かしてな」

「それは……」


 夏目の言葉に宮下は困惑な表情を見せる。


「全員が、首を刎ねられて死んでいる。検察から上がってきた情報を見るに犯人は同一犯。問題は……」

「犯人は上落ち村に縁がある者では?」

「それはない。生き残った一人は意識不明の重体だと報告が上がってきている。20年間昏睡状態にある人物の名前は山岸鏡花――、山岸直人の実の妹のようだ」




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