第14話 日本ダンジョン探索者協会(1)

「くそがっ! 死にさらせええええ」


 顔に刺青を彫ってある金髪に髪を染めた男が怒声を上げながら、折りたたみのナイフを俺に向けながら突っ込んでくる。

 ずいぶんと動きが遅いように感じる。

 先ほどアパートの壁に顔を叩きつけた男もそうだったが、まるでスローモーションのようだ。

 俺は、怒りに燃えながらもどこか冷静に事態を把握し、どうすれば効率よく相手を倒せるのかを思考しながら動く。

 そして「解析LV10」で、相手のステータスを確認。


 突っ込んでくる男のステータスを見る




 名前 赤山(あかやま) 雄太(ゆうた)

 年齢 19歳

 身長 182センチ

 体重 68キログラム

 

 レベル13


 HP130/HP130

 MP130/MP130


 体力29(+)

 敏捷28(+)

 腕力22(+)

 魔力 0(+)

 幸運 2(+)

 魅力12(+) 


 所有ポイント13


 


 中々、レベルが高い。

 それにステータスも俺より全体的に高いと見ていい。

 唯一勝っているのは腕力と幸運くらいだろうか?

 まぁ、それはいい。

 

 俺は向けられてくるナイフではなく赤山雄太という青年の手に手刀を落とすと「グシャッ」と、いう音と共に赤山の両腕があらぬ方向へと曲がった。

 当然、赤山が持っていたナイフは通路の上に落ち甲高い音を周囲に響かせる。


「ひあっ……。お、おれの……、う……うでがあああああ、いてええ、いてええよおおおお」

「煩い、黙っていろ!」


 俺は痛みのあまり通路の上で転がり続ける男の頭を踏みつける。


 残りのHPは93というところだ。

 別に死ぬことはないんだから大げさもいいところだ。


「――お、お前……、いったい……、何なんだよ!」

「――ん?」

 

 男の言葉に俺は視線を向ける。

 もちろんステータスを確認することも忘れない。




 名前 西貝(にしがい) 一(はじめ)

 年齢 22歳

 身長 180センチ

 体重 80キログラム

 

 レベル11


 HP110/HP110

 MP110/MP110


 体力22(+)

 敏捷19(+)

 腕力28(+)

 魔力 0(+)

 幸運 3(+)

 魅力 6(+) 


 所有ポイント11



 

「何か言えよ!」


 鉈を右手に持ちながら威勢よく叫んでくる男を見る。

 西貝という男は肩幅が広くガタイがいい。

 5人の中では一番腕力があるが……。


 ただ――、それだけだ。


「黙れ」


 俺は短く言葉を紡ぐ。

 基本的に俺は普段はあまり人に興味は持たない。

 それに他人がどうなろうと知ったことでない。

 死のうが生きようがどうでもいいとまで考えている。

 ただし、それは自分が関与していない場合に限る。

 この俺のプライベートを犯してくる者には俺は容赦はしない。

 もちろん、残業は別だ。

 対価が支払われるからな。

 だが理不尽なことに関しては俺は看過しない。


「貴様らは、俺の家の窓ガラスを壊し――、……そして…………、俺の大事な物を奪った! これが、お前らに対する俺の答えだ」


 西貝という男が、「大事な……者……」と一人呟きながら自身のとなりに立っている男――、月城という男と顔を合わせると俺の方を見てくる。


「そうか……、そういうことだったのかよ」

「西貝、ここは一旦逃げたほうがいい。コイツ、普通じゃない。コイツの俺たちを見る目……、まるで同じ人間として見ていない」

「なんだよ! それ! 目の前に居るコイツが俺たちを人間として見ていないだって? そんな奴がいるわけが――」

「小僧共、ここは一方通行の通路だ。逃げるなら飛び降りて逃げるくらいだが……、この俺が逃がすと思っているのか? お前らが行くのは警察の監獄だ」

「馬鹿か! 俺の親父は千葉県警の上の人間なんだぞ!」

「だから?」


 とりあえず殺しておくか。

 全員殺しておけば後腐れもないだろ。


「ひいいいい、こいつ――、こいつ――、西貝! やめろ! こいつ、まともじゃない!」


 スッと冷え切っていく感情の中で、俺は踏みつけている赤山という男の頭を踏みつぶしてから、残りを処分しようと考える。


 


  ――スキル「ZH)N」を手に入れました。




 また、どういう意味か分からないスキルを手に入れたな。


「そこまでだ! 全員、手を上げろ!」


 警察が来たのかと振り向く。

 それにしてはサイレンは聞こえなかったが……。


 すると、そこには警察ではなく自衛隊の服装をした人間が3人立っていた。

 そのうちの2人が俺達に向けて銃口を向けている。


「探索者が一般市民に暴力を振るうことは重罪に値することを知っているのだろうな!」


 銃口を向けてきている2人の後ろから男が顔を見せる。

 その顔には見覚えがある。


「山根2等陸尉……」

「おや? これは奇遇なところでお会いしましたね」


 ――それは俺のセリフだ

 

 どうして、こんなところに陸上自衛隊の人間が? と俺は疑問を持つ。

 そもそも桜木町付近には自衛隊の基地はないはず。

 普通に考えて千葉東警察署管轄の警察官が到着するのが早いはずだ。


「……どうして、ここにいる?」

「…………凄まじい殺気ですね。言いましたよね? 偶然だと――」

「偶然で片付けられるとでも?」

「仕方ありませんね。調査をしていたのです」

「調査?」


 何の調査だ?


「貴方の家を襲撃していた男たちのことです……、と言えばご理解いただけますか?」

「……つまり、こいつらを尾行していたということか?」

「ええ、そういうことです。ですから足を退けてもらえますか?」

「分かった」


 俺は踏みつけていた男の頭から足を退かす。

 

「おい、確保だ。千葉東警察署の連中が来る前に運び出せ」


 山根の言葉に、後方で待機していた自衛隊員たちが姿を現し若者たちを連れていく。


「それで説明はしてもらえるんだろうな?」

「分かっています。山岸さんが大事にしていた者が傷つけられたということですから、きちんと説明はさせていただきます」


 ――ん? 話しが噛み合わないな?

 大事にしていた物? 牛丼はそんなに賞味期限は長くないはずだが……。

 こいつは何か勘違いしているんじゃないのか?

 まぁ、それはおいおい聞かせてもらえばいいか。


「山根2等陸尉殿」

「山根で構いません」

「――では、山根さん。佐々木のことなんだが――」

「ええ、分かっています。彼も一緒についてきてもらいたいのですが?」

「どうしてだ? 俺としては、家の窓ガラスを直してもらえばそれでいいんだが?」

「こちらとしてはついてきてもらいたいのです。今回の問題は警察当局の干渉を受けたくないので――」

「……何か事情があるということか?」


 俺の言葉に山根は首肯する。


「はぁー、仕方無いな。分かった、すぐに用意させる」

「さすが山岸さん。私が見込んだだけのことはありますね」

「煽てても何も出ない」


 何となく話していて分かった。

 山根2等陸尉という男、何か隠している。

 ただ、それが何かが分からない。


 俺は佐々木を呼ぶ為にドアを開ける。

 その時に、山根のステータスを一応見ておく。




 名前 山根(やまね)昇(のぼる)

 年齢 48歳

 身長 177センチ

 体重 65キログラム

 

 レベル288


 HP2880/HP2880

 MP2880/MP2880


 体力47(+)

 敏捷41(+)

 腕力53(+)

 魔力 0(+)

 幸運 6(+)

 魅力 7(+) 


 所有ポイント288




「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


 今までで見てきた中で一番レベルもステータスも高い。

 それに年齢が48歳?

 どう見ても20代後半にしか見えないぞ?

 どうなっているんだ? 

 

 

 それともう一つ、気になったのは、誰も所有ポイントをステータスに振っていないことだ。


 もしかしたら振れるということを知らないのかも知れないが……。


 まぁ、知っていたら山根とかはすごいことになりそうだから言わないがな。


「佐々木」

「先輩……」


 部屋の隅で蹲っている佐々木を見て俺は溜息をつく。


「陸上自衛隊の人間が助けてくれた。話を聞きたいらしい」

「それって……」


 俺の言葉に言い淀む佐々木。

 男だったときのてきとーを絵に描いた軽薄な男が嘘のように物静かになってしまっている。

 

「相手をした人間の中には千葉県警のお偉方の息子がいたらしい。警察に関与されると面倒事になるらしいから、まずは移動しよう」

「はい……」


 佐々木は俺に促されるように部屋から出ていく。

 俺は、佐々木が出ていくのを確認するとデスクの上から家の鍵を手に取り部屋を出たあと鍵を閉める。

 まあ、窓が壊されているから入りたい放題だが……。


 アパートの階段を下りると緑色のハマーが、アパート前に停車していた。

 明らかに小道にそぐわぬ外見で違和感がありまくりだ。


「佐々木さんはこちらへ」

「はい」


 山根の部下の指示でハマーの後部座席に乗り込む佐々木。

 俺も向かおうとすると山根が待ったをかけた。


「山岸さん。さすがに警察官が到着した時に誰もいないと不審に思われます」

「たしかに、そうだな」


 あれだけの騒動が起きていて誰も気がつかないわけがない。

 窓ガラスも割れて散乱している。

 警察は事件性を持って捜査する可能性だってありうる。

 そうなるのを山根は恐れているのかもしれない。

 まあ俺だって県警のお偉いさんの息子が親に縋りつくという構図が思い浮かばないわけではない。


「そうすると、警察に事情を説明した方がいいということか?」

「ええ、それもなるべく真実から遠い形でお願いします」

「仕方無いな……」

「山岸さんならできると思っていますので」

「……ずいぶんと俺を買ってくれるものだな」

「それでは、私たちもここに止まるのはよくありませんので。あとで下志津駐屯地までお越しください」

「……分かった」


 山根がハマーに乗り込むと、そのまま車は走り去った。

 それからしばらくするとパトカーのサイレン音が聞こえてきた。







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