第21話

 真澄は悔しそうにするでもなく、いつも通りの口調で言った。


「昔の話。もう随分会ってないからなんとも言えないけど今はそう簡単には負けないわよ。ソーサルは普通の人より技術の吸収力が比べものにならないから、子どものときに比較すると差はつきやすいのよ。あ、これ言い訳ね」


「さまさま、ですね」


 祥介は斬られた肩口に触れる。

 授業中、綾奈の後ろ姿を見つめながら、祥介は綾奈との戦闘を何度も反芻していた。斬撃を食らったときの刃の角度、位置、踏み込み。躱し損ねていれば腕は確実に宙を飛んでいただろう。その相手が前の席にいるという状況は、祥介の精神を疲弊させるには十分だった。


「肩、ちゃんと処置した?」


 そんな祥介を見て真澄が尋ねた。


「はい。まぁ簡単にですけど」


「帰ったらもう一回、消毒するのよ。私が教えたことは?」


「回復力に依存しない」


「よろしい」


 一日経てば大抵の怪我は治ってしまう祥介には、怪我の治療というものをいい加減にしてしまう癖があった。今では完全に矯正されて鞄には常に治療キットを入れているぐらいである。


「雪華は……ロンドンに行ってたときなんですかね。あいつと会ったの」


「二人が知り合いなのは私も知らなかったけど、多分その時期でしょうね。ちょうど私との一年くらいの修行が終わって、綾奈ちゃんがロンドンに行った時期と重なるから。まぁ雪華ちゃんとそりは合わないだろうなぁ」


「それはもう絶望的でした」


 なんといっても問答無用で銃弾をぶっ放すほどだ。過去、雪華の交友ランキングでは間違いなくワースト一位である。

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