第95話 鍛冶師のおっちゃん

スノーホワイトに居た転移者の鍛冶師のおっちゃんのところに様子を見に来た。

我が町にも慣れ、落ち着いてきたようだ。

それで一振りの日本刀の作製を依頼した。

お礼を込めて最高の一本を作ってくれるらしい。

できあがりが楽しみだ。


「ほんとうにここに連れてきてくれてありがとう。もう帰れないことは覚悟していたが日本を感じられるこの町にこれて幸せだ。」


「それは良かった。何か不自由なことがあれば何でも言ってくれ。できるだけ対応するので。」


「実は気がかりなことがあってな。スノーホワイトで世話になった娘が今も元気に暮らしているのか心配なんだ。急にこっちに来ちまったから別れの挨拶もできなかったんだ。」


転移後、なかなかこの世界に馴染めなかったおっちゃんを励ましてくれた孤児の幼女がいたらしい。

その子のおかげでなんとか今まで生きてこれたそうだ。

今は大人になって孤児院で働いている。

それじゃ会いに行こうということでおっちゃんを連れてスノーホワイトに転移する。

孤児院に行くと長身で細身の銀髪ショートの10代後半ぐらいの女性が働いていた。

同僚とともにテキパキ仕事をこなしている。

好感の持てる女性だった。

おっちゃんが近寄り話している。

笑顔が眩しい。

この子はうちの子供の保母さんに良さそうだ。

おっちゃんに相談してから誘ってみることにする。


「初めまして。私はスカイ・ブルームーンと申します。おっちゃんとは同郷で、おっちゃんには今、俺の町で暮らしてもらってます。」


「こちらこそ、初めまして。私はミッシェルと申します。おっちゃんとはアオイのことですか?」


おっちゃんの名前はアオイだそうだ。

いつもおっちゃんと呼んでいたので今更名前を知った。


「アオイは女の子ですよ? 転移したときなぜかドワーフの男性になってしまったそうです。それで随分悩んでいました。」


え?! 衝撃の事実だった。

アオイことおっちゃんは元女子高生で、転移し転性したらしい。

そしてミッシェルは相談役になっていたそうだ。

おっちゃんを理解してあげて支えてくれた大切な人だ。


「ミッシェルさんも私の町に引っ越しませんか? アオイをこれからも支えてあげてほしいのです。もちろんあなたの衣食住を私が保障しますので。」


「え? あなたの町とはもしかして、最近できたブルームーンですか? 私は孤児なので家族も居ませんし、あの有名なブルームーンで暮らせるなんて夢みたいです。

アオイのことも心配なのでよろしくお願いします。」


「ミッシェル。ブルームーンはすばらしい町だ。うちで一緒に住んでもいい。これからもそばで支えてほしい。」


ということで、ミッシェルも引っ越すことになった。


「ミッシェルさん。それでうちの子供たちの保母をお願いしたいと思うのだがいかがでしょうか?」


OKをもらったので保母さんをお願いすることになった。


そしてもう一つの問題が残っている。

アオイの性別だ。

女子高生がいきなり転移し、しかもドワーフのおっさんになっていたら相当なショックだったろう。

そして、授かったスキルが生産系のしかも鍛冶だ。

相当苦労しただろう。

どうしてこうなったのか詳しくメリーナに問い詰める必要があるな。


「メリーナ! どういうことか説明してもらおうか!」


「うんとな。ちょっとした悪戯だったのじゃ。おもしろいかなぁと思ってな。すまんかったのじゃ。」


「アオイがどれだけ困惑したか想像できるだろ?」


「まず女性に戻して、不老不死を授けるのじゃ。そうすれば転移したころの歳に戻るし、異世界ライフをもう一度やり直してもらうということで許してほしいのじゃ。それに望むスキルをなんでも授けるのじゃ。神殿にアオイを連れてきてほしい。謝らせてくれ。」


アオイに話すと俺の刀を作るまで待ってほしいと。

女性に戻ったらもう今のように鍛冶ができるかわからないからだそうだ。

そして1か月後、俺の新しいアオイ作の刀ができた。

刀の銘はそのまま「葵」とした。


そして、メリーナの謝罪とアオイの性転換が行われた。

おっちゃんが美少女に生まれ変わった。

そして鍛冶系スキルから料理、家事のスペシャルスキルに変更された。

喫茶店の経営をしたいそうだ。

それからアオイのもう一つの希望はミッシェルへ幸福を与えることだった。

もちろんミッシェルへも不老不死を与えた。

2人とも幸せになってほしい。

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