第49話 アントローサの思い

カナンデラとラルポアは二人揃ってアントローサ警部にお目玉を食らった。アペロを楽しんでから帰宅すると連絡してから数時間後、ショナロアの心尽くしのディナーはすっかり冷めて、帰宅したのは10時を過ぎていた。


「昨日は外泊、今日は門限破り」


「そんなお子様タイムではラナンタータも婚活できませんよ、伯父さん」


言い訳はカナンデラに任せて、ラルポアはラナンタータを見た。


ラナンタータはデカダンス・ジョークから様子がおかしい。あのローランというタワンセブジュニアのせいだ。


少し話をしただけなのに、女子学園で男免疫のないラナンタータは秒殺された。仕方のないお姫様だ。急に笑ったりため息を吐いたり気分のアップダウンが激しい。もしかして恋……恋の病は躁鬱障害を併発するものらしい。一目惚れと言うやつか。女の#罹患__かか__#る病。


しかし、アントローサ警部には伝えられない。ローランはマフィアの跡継ぎだ。ラナンタータ姫の恋の相手には相応しくない。


僕がなんとかしなければ……



ラナンタータは、デカダンス・ジョークでの楽しい論議を思い出していた。議題は『封建制度からの女性解放』と『数の暴力と権力』について店内が沸き立った。

ラ・メール・ユウコが議長で、番号札の上がったテーブルの番号を指名すると、そのテーブルの論客がステージで議題に対する持論を展開できるという仕組み。論客は客席からの質問にも答える。次々に論客が替わり、ローランがステージにたった。


ラナンタータはため息を漏らす。


素敵。ローラン……お友達になりたい。


金髪に紺のハイネックのセーター。


『此の国にも、隣国の革命を語らずには通れない闇の時代があった。今は民衆からも代議士が選出されるが、それは民衆の側から貴族院政治に対する数の力という一つの権力であったはずだ。

しかし現在、代議士は全国民の意志を反映しているだろうか。

9年前に周辺国で起きた大戦に参加するか否かで国が二つに分かれ内紛まで起きたのは、貴族院と一般大衆が混じり合っての二極化が起きて混迷したからだ。

先の大戦には参加しなかったものの、あのような世界大戦が再び起こる可能性がある。此の国が平和な国家であり続けることができるかどうか、我々が国民として手にしたはずの数の力を、その国民力を、如何に使うかが問われている。僕は若輩者だが、代議士制度と貴族院は廃止すべきだと考えている……』


廃止してどのような政治形態を構築するかと質問されて、ローランは国民投票政治の考えを提示した。


『先ずは貴族制度の廃止。国民は皆一人に一つだけの命を持った平等の生き物であり、生まれで身分が決められるのはおかしい。身分制度という古い権力を廃止すること。全てを平等から始める。

貴族の占めていた地域の経済活動全てを企業化すれば人員は給料で雇われ、経済が回り、国が豊かになる。非雇用者は数の力を手にすることになるが、それを暴力にさせない為に雇用法を作る。どの地域でも適応される法で、法の地域格差を無くす。法は、全ての国民の投票で決める。政策も同じく、全国民の投票で決める』


ラナンタータは一生懸命拍手した。


『素敵、素敵』


素敵を連発してローランを目で追う。


『個人的にお話ししたい。其のアイデアはまだ詰める処が沢山あるよ』


興奮した。


『駄目だよ、ラナンタータ。もう帰らなければ。アペロだけの約束だ』


ラルポアにはアントローサ警部の顔がちらつく。


『もう少し、ね。ラルママと一緒だから安全だし、私はもっと早く来たかったな』


それで帰りが遅くなった。

ラルポアはアントローサ警部にローランについて話せなかった。


階段を上りながら、明日も行こうねとラナンタータがこっそり囁く。


ラルポアは廊下の曲がり角で先を歩くラナンタータの腕を引いた。力が入りすぎたかラナンタータの身体が胸にぶつかる。ラルポア自身が驚いたが、そのまま抱き締めた。


「駄目だよ。もしもこういうことをされたらどうするの」


「どうするか考えていないけど、私は嬉しい。恋だと思う」


「ラナンタータ、相手はマフィアだよ。君はアントローサ警部の娘だ。許されない恋だ。」


親のように抱き締めながら呟く。


「でも、好きなの。ラルポア、私、おかしいの。とっても好きになっちゃって、恋だよね」


「駄目だよ、ラナンタータ。君は警部の娘だ。立場が違う。身分が違う」


「ラルポア、身分なんか関係ない」


廊下の曲がり角に差し掛かったアントローサ警部は、此のやり取りを途中から立ち聞きした。


そういうことだったのか、娘よ。やっとラルポアの良さに気づいたか。

ああ、なんという素晴らしい展開だ。こんなことなら門限など気にぜずとも良い。バンバン破れ。

ラルポア、身分など最早関係ないぞ。私はお前がまだ幼い頃から跡継ぎにしたかったのだ。私はお前の父親になる。

結婚式はいつにする。

私とショナロアはお前たちとダブル婚出来る訳だ。早速、ショナロアと話そう。


アントローサ、それは早とちりだ。


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