29話.君が悪いんだからね。
佐々木なら千花の代わりになれるんじゃなかと一瞬考えてしまう。私はいつの間にか佐々木に死んだ千花を重ねて見てたということになるのだろうか。そんなことを考えている自分が、嫌になる。いっそう死ねばいいのに。
ベランダに出て外を見ていたらこっちに歩いて来る佐々木が見える。小さく手を振ってるではあげる。そうすると佐々木は大きく手を振った。雪の中を歩いてくる佐々木は灰色の街の中で唯一に色を塗ったように感じられた。彼女のお気に入りのような赤いマフラーよけいにそう見えるようにするのだろう。だからこれは多分、佐々木のせい。
花沢先輩と私を明るく呼ぶ佐々木が私の部屋に入る。私と千花の思い出の部屋に入る。これでいいのかな。私、大丈夫なのかな。佐々木が来る途中で買ってきたと言いながらカレーを私に見せる。一緒に食べましょうと愛嬌の混じった声で言う。佐々木はカレーが好きなのかと私が尋ねる。佐々木は言う。
『先輩と食べるものならどんなものでも好きです。』
こんなことだめなのに、だめだと知っているのにも関わらず佐々木に千花を重ね見てしまう。涙が出るのを堪えたままカレーを全部食べて、片付けをした。佐々木のせいだ。
佐々木は部屋の隅に埃まみれになっていたゲーム機を見つけては、その上に上げていたゲームパックを持ってきて自分も昔これをよくやっていたと嬉しそうな声で言う。一緒にやりませんかと聞く佐々木の表情をみるとそれを断れなくなる。そういえば千花が死んでからは一度も電源を入れて見たことがなかった。
一緒にゲームをやっていると隣に座っている佐々木の笑い声がよけい鮮明に聞こえる。その笑い声に千花を思い出す。もう涙を堪えられなくなる。
「先輩?いきなりどうしたんですか?私、何か悪いことしました?」
とても不安がる顔を震える声で佐々木が私に言う。よけい涙が止まらなくなる。佐々木の行動の何もかもが千花を思い出させる。小さな仕草一つにも千花を思い出してしまう。
「ごめんなさい。私が無理矢理やってきて迷惑でしたよね。ごめんなさい。早く帰ります。」
佐々木はとても悲しげな今でもすぐに泣きそうな声でそう言った。立って出ようとする佐々木を引き止める。私の前に座らせる。佐々木の顔を真っすぐに見る。でも涙のせいで滲んでよく見えない。千花の顔が見える気がする。
「先輩…。」
小さく佐々木が言う。
「佐々木。君が悪いんだからね。」
私はそう言ってから佐々木にキスをした。
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