28話.外に出たくない。

 猫は可愛い。誰でも知っている事実だ。佐々木の猫はまだ小さくてこの頃だけの可愛さも持ち合わせていた。でもあまり私は好きじゃないみたいだ。しゃあしゃあ言ってばっかりだ。

 「本当にごめんなさい。うちの子が大変失礼を…。」

 子供が悪さした時の親みたいないい口だな。

 「いいよ。大丈夫。それに久しぶりに楽しかったし。」

 これは偽りのない本音だ。本当に私は今日、久しぶりに楽しかった。そもそも休みの日にこうやって誰かと会って、誰かとはしゃいだのが久しぶりだ。千花が死んでからはいつも一人だったから。

 「私も、私も楽しかったです。」

 「うん、ありがとう。」

 佐々木は、私には多分できないであろう明るい笑顔で答えてくれた。

 「先輩。」

 「何?」

 「またこうやって休みの日に会いましょう。私はもっともっと先輩と仲良くなりたいです。」 

 その夕暮れにも負けない笑顔で言った。

 「…そうだな、考えてみるよ。」

 そう言ってから私は私の家に向かって歩き始めた。佐々木が手を振ってるではないかと思ったが、私は後ろを振り向かなかった。


 千花と過ごしていた家に帰り、誰もいない部屋の電気を入れて、着替えないままベッドに倒れた。外はもうすっかり暗くなり星もよく見える。雪も降らない晴れたいい日なのに、私の気持ちは曇りよく見えない。私はあの子に千花を重ねて見ているのかな。ベランダ越しに見える空がよけいに黒く見える。


 次の休みの日、私は外に出なかった。元々、外に出ること自体が好みじゃないし、行く気にもならなかった。今日は雪が降るそうだ。こういう日は外になど出たくなくなる。雪が降る日に外に出ると街はよけいに灰色に見える。灰色の街を歩いていると私は一人であることを自覚する。街を歩く人々はこんなにも多いのに、私はこんなにも孤独だと知ってしまう。だから雪の日には外に出たくない。だから私はペンをとる。

 『いつも会いたい千花へ。』

 また手紙を書き始める。手紙を書いていると携帯のベルが鳴る。携帯を確認するとそこには佐々木の名前が出ていた。

 「あ、先輩。」

 佐々木の声は今日も明るい。

 「この前の約束、覚えていますか。」

 「約束?」

 「だから今日、会いませんか?」

 佐々木は直球で言ってきた。

 「今日か。私、雪の日には外にあまり出ないんだ。」

 「はい、知ってます。」

 知ってる?

 「だから今日は私が先輩の家に行きます。」

 佐々木は迷いなどない声で言った。

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