27話.猫を見に行きましょう!
あの日、あの吹雪の日。私が病院に着いた時にはもう何もかもが遅かった。私は何もすることができなかった。残ったのは自分の無力さと後悔だけだった。
「私は戻りません。」
その事件があってすぐ私と千花の家に来た両親に最初に言った言葉だった。
「愛葉、そんなこと言わずにもう帰ってくれ。帰って全部忘れて普通の人に戻ろう。」
そんなことを言う両親に吐き気がした。
「いいから、帰ってください。それともう二度と会いに来ないでください。」
そう言ってからドアを閉め鍵をかけた後、トイレに入って行き食べたものを全て口から出した。もう何も出なくなっても吐き続けた。でもその苦しみは心の苦しみよりは少しもつらくなかった。ただ千花に会いたかった。
「先輩、猫見に行きませんか?」
千花との思い出のカフェにいるといつの間にかまた佐々木が来ていた。
「猫?」
「はい、猫です。先輩が猫は好きだと言っていたじゃないですか。」
ああ、そういえばそんなことも言ってたよな。でも好き嫌いで聞かれると好きってだけであそこまで興味があるのではないのだけれど…まあいいか。
「それでどこに行くと?」
「私の家です!」
「君の家?」
「はい!」
これはまた何と反応すればいいのやら…。
「私、実は猫を飼っていたんですよ。自炊したらまず猫を飼うと決めていたので自炊スタートとともに猫も飼い始めてました。」
「君、猫好きだな。」
「はい!でも両親の猫アレルギーのせいで今まで飼えなかったのでとても残念でした。でも今は違います!飼いまくりです!あ、実は飼いまくりじゃないです。お金がありません。」
そう言う佐々木は本気で残念そうな表情をした。猫というものはそこまで好きになれるものなのだろうか。私が今まで何かをそんなに好きになったのは多分、千花だけだ。そしてこれからもそうである気がする。
「でも会社の先輩がいきなり後輩の家にお邪魔するとか、不便じゃない?」
「大丈夫です!先輩ならいつでも大丈夫です!あ、いつでもは違います。掃除できなかった日はだめです。」
「掃除した日もどうかと思うけど私は。」
「とにかく私が大丈夫です!さあ、一緒に行きましょう!」
本当に誰にでもなつくような人だな。こんな暗いだけの私にまで声をかけ、親しくなりたくて頑張り、家にまで招待するとは。この佐々木という後輩のことが少し心配になり始めた。
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