18話.梅雨

 「今知った事なんんだけど、今日から梅雨なんだって。」

 千花はスマホ画面を見ながら言った。

 「そうだね。そんな気がしてた。」

 天気予報を今更チェックしなくてもわかる。だって千花も私も傘がなくて家に帰れないのだから。


 あのプロポーズみたいな告白の日以来、私たちの中に劇的な変化はなかったが、それでももっと互いを求めるようになった。同居まではしていないが、前より千花は私の部屋に来る頻度が増え留まっていく日が増えた。だから今日も千花が私の部屋に来る日なのに今雨で動けない状況である。どうしたらいいか。

 「こういう時は普通、二人のうち誰かが傘を持ってきて相合傘になるのでは?」

 千花がこの前一緒に見た映画で出たシーンを思い出させるようなことを言った。

 「じゃあ、駅まで走る?」

 私の提案に千花は少し悩んだ。

 「先輩と一緒ならそれもいいかも。」

 梅雨に似合わない晴れた表情で千花は答えた。


 私たちは走った。千花は笑っていたし、多分私も笑っていた。駅に着く頃には二人ともびしょ濡れでこれじゃあ電車に乗れないなと思い、駅のコンビニで一個だけ残っていたビニール傘を買い相合傘をした。濡れた腕と腕が当たって余計冷たく感じた。でも幸せだった。私たちは同じ傘の下で笑った。


 部屋についたのは日が暮れた後だった。千花と私の順で風呂にした。

 「千花、今日は私の部屋に泊まっていくのはどう?もう日も暮れたし、それにまだ服も乾いてないし。」

 千花と私は今、服を乾く間という言い訳をしながら同じ布団の中で服を脱いだままでいる。

 「やっぱりそうするしかないよね。」

 千花はそれがいいわけだとわかっているというやんちゃのような表情で笑った。いつか私たちも他の人たちのようにあたり前に結婚してあたり前に一緒に暮らす中になれるかな。私たちが住んでいるこの社会が私たちを認めてくれる日がいつかは来るのかな。

 いや、こなくても私は千花と一生一緒にいると誓ったんだ。例えこの世のすべての人々が私たちも反対するとしても千花と一緒にいたい。

 「先輩?」

 千花が私を呼ぶ声で現実に戻る。

 「何考えていたの?そんなに深刻な顔して。」

 「そうだな。千花と一生一緒にいたいと思っていたところ。」

 さっきより激しくなった雨音で互いの声もよく聞き取れないくらいだけれど千花に私の思いは伝わったようだ。電気が消している部屋の中で外の街灯の明かりを頼りに互いを見て、周りのすべての音を消す雨音を耳にしながら私たちはキスをした。激しいキスをした。長いキスをした。互いを強く求めた。


 互いが互いを求めあうさなか、いきなり部屋のドアが開く音がした。

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